外国為替証拠金取引(FX)を始めるにあたり、多くの初心者が最初に直面する壁が「通貨ペア選び」です。FX会社が提供する通貨ペアは数十種類にも及び、「どれを選べば良いのかわからない」「どの通貨ペアが自分に合っているのか判断できない」といった悩みは、誰もが通る道と言えるでしょう。
しかし、この通貨ペア選びは、FX取引で安定した利益を目指す上で極めて重要な要素です。それぞれの通貨ペアには異なる特徴や値動きのクセがあり、自分の取引スタイルやリスク許容度に合わないペアを選んでしまうと、思わぬ損失を被る原因にもなりかねません。
逆に言えば、自分に合った通貨ペアを慎重に選び、その特性を深く理解することこそが、FX成功への最短ルートとも言えます。
この記事では、FX初心者の方に向けて、通貨ペアの基本的な知識から、選ぶ際に押さえるべき重要なポイント、具体的なおすすめの通貨ペア、そして取引で利益を出すための実践的なコツまで、網羅的に解説します。この記事を読めば、無数にある選択肢の中から、あなたが最初に取引すべき通貨ペアが明確になるはずです。
目次
FXの通貨ペアとは?
FXにおける「通貨ペア」とは、その名の通り、取引対象となる2つの国の通貨の組み合わせを指します。FX取引は、ある通貨を売り、同時にもう一方の通貨を買うという「交換」を行うことで利益を狙う金融商品です。そのため、必ず「米ドルと日本円」「ユーロと米ドル」のように、2つの通貨がペアで表示されます。
例えば、海外旅行で日本円を米ドルに両替する場合を考えてみましょう。これは「円を売ってドルを買う」行為であり、FXの取引と本質的には同じです。FXでは、この通貨の交換をレバレッジを効かせて行い、為替レートの変動によって生じる差額を利益(または損失)として受け取ります。
したがって、通貨ペアの仕組みを正しく理解することは、FX取引の第一歩として不可欠です。
通貨ペアの表記ルール(基軸通貨と決済通貨)
通貨ペアは、アルファベット3文字の通貨コードを「/(スラッシュ)」で区切って表記するのが国際的なルールです。例えば、「米ドル/円」であればUSD/JPY
、「ユーロ/米ドル」であればEUR/USD
と表記されます。
この表記には明確な決まりがあり、スラッシュの左側に表示される通貨と右側に表示される通貨には、それぞれ異なる役割があります。
用語 | 英語表記 | 説明 | 例 (USD/JPY ) |
---|---|---|---|
基軸通貨 | Base Currency | スラッシュの左側に表記される通貨。取引の主役となり、この通貨を売買する。 | USD(米ドル) |
決済通貨 | Quote Currency | スラッシュの右側に表記される通貨。基軸通貨の価値を測るための通貨。 | JPY(日本円) |
USD/JPY
という通貨ペアの場合、基軸通貨はUSD(米ドル)、決済通貨はJPY(日本円)となります。
そして、FX会社が提示するレート、例えば「USD/JPY = 150.00
」というのは、「基軸通貨1単位(この場合は1米ドル)を、決済通貨(日本円)で買うのにいくら必要か」を示しています。つまり、「1米ドル = 150.00円」の価値があるという意味です。
このルールを理解すると、FXの「買い」と「売り」が何を意味するのかが明確になります。
USD/JPY
を「買い(Buy)」注文する場合- これは「基軸通貨である米ドルを買い、決済通貨である日本円を売る」ことを意味します。
- トレーダーは、今後「米ドルの価値が円に対して上がる(円安ドル高になる)」と予測しています。
- 例えば、1ドル150円の時に買い、151円に上昇した時に売れば、1円分の利益が得られます。
USD/JPY
を「売り(Sell)」注文する場合- これは「基軸通貨である米ドルを売り、決済通貨である日本円を買う」ことを意味します。
- トレーダーは、今後「米ドルの価値が円に対して下がる(円高ドル安になる)」と予測しています。
- 例えば、1ドル150円の時に売り、149円に下落した時に買い戻せば、1円分の利益が得られます。
このように、FXの売買は常に左側の基軸通貨に対して行われます。この基本原則は、どの通貨ペアを取引する上でも共通です。初心者のうちは混乱しやすいポイントですが、取引を始める前に必ずこの関係性をマスターしておきましょう。
FXの通貨ペアの種類
世界には数多くの通貨が存在し、それらを組み合わせることで無数の通貨ペアが生まれます。しかし、FX取引で主に扱われる通貨ペアは、いくつかのカテゴリーに分類できます。ここでは、通貨ペアを理解する上で重要な「メジャー通貨とマイナー通貨」「ドルストレートとクロス通貨」という2つの分類方法について解説します。
メジャー通貨とマイナー通貨(エキゾチック通貨)
通貨ペアを構成する通貨は、その取引量や経済的な影響力によって「メジャー通貨」と「マイナー通貨」に大別されます。
通貨の種類 | 特徴 | 具体例 | 初心者への推奨度 |
---|---|---|---|
メジャー通貨 | 取引量が多く流動性が高い。スプレッドが狭い傾向。情報が入手しやすい。値動きが比較的安定。 | 米ドル(USD)、ユーロ(EUR)、日本円(JPY)、英ポンド(GBP)、スイスフラン(CHF)、豪ドル(AUD)、カナダドル(CAD)、NZドル(NZD) | 高い |
マイナー通貨 | 取引量が少なく流動性が低い。スプレッドが広い傾向。値動きが激しい。カントリーリスクが高い。 | トルコリラ(TRY)、南アフリカランド(ZAR)、メキシコペソ(MXN)、ハンガリーフォリント(HUF)など | 低い |
メジャー通貨
メジャー通貨とは、世界的に取引量が多く、流動性が高い主要先進国の通貨を指します。一般的には、米ドル(USD)、ユーロ(EUR)、日本円(JPY)、英ポンド(GBP)、スイスフラン(CHF)といった通貨に、オーストラリアドル(AUD)、カナダドル(CAD)、ニュージーランドドル(NZD)の3つの資源国通貨を加えた8通貨がメジャー通貨と見なされています。
これらの通貨は、政治・経済が比較的安定しており、世界中の投資家から信頼されています。そのため、取引が非常に活発で、以下のようなメリットがあります。
- 流動性が高い: いつでも希望に近い価格で売買しやすい。
- スプレッドが狭い: 取引コストを低く抑えられる。
- 情報が入手しやすい: ニュースや経済指標の発表が多く、日本語での情報も豊富。
これらの理由から、FX初心者はまずメジャー通貨同士を組み合わせた通貨ペアから取引を始めるのが鉄則です。
マイナー通貨(エキゾチック通貨)
一方、マイナー通貨とは、メジャー通貨以外の通貨全般を指し、特に新興国の通貨を「エキゾチック通貨」と呼ぶこともあります。代表的なものに、トルコリラ(TRY)、南アフリカランド(ZAR)、メキシコペソ(MXN)などがあります。
これらの通貨は、以下のような特徴を持っています。
- 流動性が低い: 取引量が少ないため、売買が成立しにくかったり、不利な価格で約定したりすることがある。
- スプレッドが広い: 取引コストが高く、利益を出すためのハードルが上がる。
- ボラティリティが高い: 価格変動が非常に激しく、ハイリスク・ハイリターンな取引になりやすい。
- カントリーリスク: 当該国の政治不安や経済危機など、予測不能な要因で通貨価値が暴落するリスクがある。
高金利通貨が多く、スワップポイント(金利差調整分)狙いの投資対象として注目されることもありますが、為替変動リスクがその利益を簡単に吹き飛ばしてしまうほど大きいため、初心者が安易に手を出すべきではありません。
ドルストレートとクロス通貨(クロス円)
通貨ペアは、その組み合わせに「米ドル(USD)」が含まれるか否かによって、「ドルストレート」と「クロス通貨」に分類されます。米ドルは世界の基軸通貨であり、外国為替市場の中心に位置するため、この分類は非常に重要です。
ドルストレート(Dollar Straight)
ドルストレートとは、米ドル(USD)がペアの一方になっている通貨ペアのことです。
- 主なドルストレート:
EUR/USD
,GBP/USD
,AUD/USD
,USD/JPY
,USD/CHF
,USD/CAD
世界の外国為替取引は、その多くが米ドルを介して行われています。そのため、ドルストレートの通貨ペアは市場全体の取引量の大半を占め、流動性が最も高いという特徴があります。流動性が高いということは、スプレッドも狭くなる傾向があり、取引コストの面で有利です。
世界の経済動向は米国の動向に大きく左右されるため、ドルストレートの通貨ペアは世界経済の「今」を映す鏡とも言えます。
クロス通貨(Cross Currency)
クロス通貨とは、米ドル(USD)を含まない通貨ペアのことです。
- 主なクロス通貨:
EUR/GBP
,AUD/NZD
,EUR/CHF
例えば、EUR/JPY
(ユーロ/円)という通貨ペアは、米ドルを含んでいないためクロス通貨に分類されます。特に、日本円が絡むクロス通貨は「クロス円」と呼ばれ、日本人投資家にとって非常に馴染み深い存在です。
- 主なクロス円:
EUR/JPY
,GBP/JPY
,AUD/JPY
,CHF/JPY
クロス通貨のレートは、多くの場合、市場で直接取引されているわけではなく、ドルストレートのレートを組み合わせて計算される「合成レート」です。
例えば、EUR/JPY
のレートは、EUR/USD
のレートとUSD/JPY
のレートを掛け合わせることで算出されます。
EUR/JPY
レート ≈ EUR/USD
レート × USD/JPY
レート
このように米ドルを介在させているため、クロス通貨はドルストレートに比べて値動きが複雑になったり、スプレッドが若干広くなったりする傾向があります。例えばEUR/JPY
を取引するということは、間接的にユーロ、米ドル、円という3つの通貨の力関係を見ていることになり、分析対象が増える点には注意が必要です。
FX初心者が通貨ペア選びで押さえるべき4つのポイント
数ある通貨ペアの中から、初心者が最初に取引すべきペアはどのように選べばよいのでしょうか。ここでは、失敗しないための通貨ペア選びで最も重要な4つのポイントを解説します。これらの基準を満たす通貨ペアを選ぶことが、安定したFXキャリアをスタートさせる鍵となります。
①取引量が多く流動性が高い
FXにおいて「流動性」とは、取引したい時に、希望する価格でスムーズに売買が成立しやすいかどうかを示す指標です。取引量が多い通貨ペアほど、市場に参加しているトレーダーが多く、流動性は高くなります。
流動性が高いことのメリットは絶大です。
- 注文が滑りにくい(約定力が高い): 例えば「1ドル150.00円で買いたい」という注文を出した際に、流動性が低いと買い手と売り手の数が少ないため、実際に約定するのが150.05円になってしまう「スリッページ」という現象が起こりやすくなります。流動性が高ければ、注文通りの価格で約定しやすくなります。
- スプレッドが狭くなる: 取引が活発だと、買値(Ask)と売値(Bid)を提示する金融機関の競争が働き、その差であるスプレッドが狭くなる傾向があります。これは直接的に取引コストの削減に繋がります。
- 価格が安定しやすい: 一部の投機筋による大きな注文が入ったとしても、全体の取引量が膨大であるため、価格が不自然に急騰・急落するリスクが比較的低くなります。
世界のFX取引量ランキング(後述)を見ても、上位は「ユーロ/米ドル」や「米ドル/円」といったメジャー通貨で構成されるドルストレートが独占しています。初心者は、まずこうした世界中のトレーダーが取引している王道の通貨ペアを選ぶことが最も安全な選択です。
②スプレッドが狭い
スプレッドとは、買値(Ask)と売値(Bid)の差額のことで、これがFX会社にとっての収益源となり、トレーダーにとっては実質的な取引コストとなります。
例えば、ある時点のUSD/JPY
のレートが以下のように提示されていたとします。
- 買値(Ask): 150.020円
- 売値(Bid): 150.017円
この場合、スプレッドは「150.020 – 150.017 = 0.003円」、つまり「0.3銭」です。この0.3銭が、1回の取引ごとにかかるコストになります。
スプレッドは、通貨ペアによって大きく異なります。一般的に、取引量が多く流動性が高い通貨ペアほどスプレッドは狭く、マイナー通貨ペアになるほどスプレッドは広くなります。
なぜスプレッドの狭さが重要なのでしょうか。それは、スプレッドが狭いほど、利益を出すために必要な値動きが小さくて済むからです。
スプレッドが0.3銭の通貨ペアで買いポジションを持った場合、レートが0.3銭以上上昇して初めて利益がプラスになります。もしスプレッドが3.0銭であれば、3.0銭以上も上昇しないと利益が出ません。
特に、数秒から数分で売買を繰り返す「スキャルピング」や、1日のうちに取引を終える「デイトレード」といった短期売買では、このスプレッドの差が収益に致命的な影響を与えます。初心者は、無駄なコストを極力抑えるためにも、業界最狭水準のスプレッドが提供されているメジャーな通貨ペアを選ぶべきです。
③情報が入手しやすい
FXの為替レートは、各国の経済状況や金融政策、政治情勢、さらには地政学的なリスクなど、様々な要因(ファンダメンタルズ)によって変動します。したがって、取引する通貨ペアに関連する情報をいかに早く、正確に入手できるかが、トレードの成否を分けます。
情報が入手しやすい通貨ペアほど、値動きの背景を理解し、将来の価格変動を予測するための材料を揃えやすくなります。
例えば、「米ドル/円」であれば、
- 米国の雇用統計や消費者物価指数(CPI)
- 日本の国内総生産(GDP)や貿易収支
- 日米両国の中央銀行(日銀とFRB)の金融政策決定会合や総裁の発言
といった重要な情報は、テレビや新聞、インターネットのニュースサイトで日本語でもリアルタイムに報じられます。FX会社も、こうした情報に関するレポートや速報を配信していることがほとんどです。
一方で、トルコリラや南アフリカランドといったマイナー通貨の場合、重要なニュースでも現地の言語でしか報道されなかったり、情報が伝わってくるまでにタイムラグがあったりします。これでは、一般の個人投資家が的確な判断を下すのは非常に困難です。
初心者は、情報格差で不利にならないためにも、日本語で質の高い情報が豊富に手に入る通貨ペアを選ぶことが賢明です。
④値動き(ボラティリティ)が比較的安定している
ボラティリティとは、価格変動の度合いを指します。「ボラティリティが高い」とは値動きが激しいことを、「ボラティリティが低い」とは値動きが穏やかであることを意味します。
ボラティリティが高い通貨ペアは、短時間で大きな利益を狙える魅力がある反面、予測と反対に動いた場合には一瞬で莫大な損失を被るリスクも抱えています。特に初心者の場合、急激な価格変動に冷静に対応できず、パニックになって不適切なタイミングで損切りしたり、逆に損失を拡大させたりしがちです。
そのため、FXに慣れるまでは、ボラティリティが比較的低く、穏やかな値動きをする通貨ペアから始めるのが定石です。代表的なのは「米ドル/円」や「ユーロ/米ドル」です。これらの通貨ペアは、重要な経済指標の発表時などを除けば、比較的緩やかに価格が推移するため、相場の流れをじっくりと分析し、落ち着いて取引戦略を立てる練習に適しています。
ポンド関連の通貨ペアのように、1日に数円単位で動くことも珍しくない激しい値動きのペアは、リスク管理の手法を身につけ、十分な経験を積んでから挑戦するようにしましょう。
FX初心者におすすめの通貨ペア7選
これまで解説してきた「4つのポイント」を踏まえ、FX初心者が最初に取引するのにおすすめの通貨ペアを7つ厳選して紹介します。それぞれの特徴や値動きの傾向、取引する上でのポイントを理解し、自分に合ったペアを見つける参考にしてください。
①米ドル/円 (USD/JPY)
初心者にとっての「王道」であり、まず最初に検討すべき通貨ペアです。日本人にとって最も馴染み深く、FXを始めるならこのペアから、というのが長年の定説となっています。
- 特徴:
- 圧倒的な情報量: 日本と米国の通貨ペアであるため、日本語で得られる経済ニュースや分析レポートが最も豊富です。日々のニュースに触れるだけでも相場観を養いやすいのが最大のメリットです。
- 高い流動性と狭いスプレッド: 世界のFX取引量で常にトップクラスにあり、流動性は抜群です。そのため、ほとんどのFX会社でスプレッドは最狭水準に設定されており、取引コストを低く抑えられます。
- 比較的安定した値動き: ポンドなどの通貨ペアに比べるとボラティリティは低めで、値動きが比較的緩やかです。トレンドが発生すると一方向に素直に動きやすい傾向があり、トレンドフォロー戦略が有効な場面が多く見られます。
- 取引のポイント:
- 最も重要な変動要因は、日本銀行(日銀)と米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策の方向性の違いです。特に両国の政策金利の差は、長期的なトレンドを形成する上で大きな影響を与えます。
- 毎月発表される米国の雇用統計や消費者物価指数(CPI)は、市場の注目度が非常に高く、発表直後には価格が大きく動く傾向があります。
- 「ゴトー日(5と10のつく日)」には、日本の輸入企業のドル決済需要からドル買い・円売りが強まりやすいといった特有のアノマリー(経験則)も存在します。
②ユーロ/米ドル (EUR/USD)
世界で最も取引されている通貨ペアであり、「キング・オブ・カレンシーペア」とも呼ばれます。プロのトレーダーから初心者まで、世界中の市場参加者がこのペアを取引しています。
- 特徴:
- 世界No.1の取引量: 国際決済銀行(BIS)の調査によると、長年、外国為替市場で最も取引されている通貨ペアです。流動性が非常に高いため、スプレッドは極めて狭く、大口の取引でもスムーズに約定します。
- テクニカル分析が機能しやすい: 市場参加者が多いため、個別の投機筋の動きに左右されにくく、チャートパターンやテクニカル指標が比較的素直に機能しやすいと言われています。
- トレンドの発生が明確: 一度トレンドが発生すると、比較的長く継続する傾向があります。そのため、デイトレードやスイングトレードにも適しています。
- 取引のポイント:
- 変動の鍵を握るのは、欧州中央銀行(ECB)と米FRBの金融政策です。両中央銀行の総裁会見や議事録は、相場の方向性を占う上で必ずチェックすべき材料です。
- ユーロ圏の中心であるドイツやフランスの経済指標、そして米国の主要経済指標に敏感に反応します。
- 米ドル/円とは「負の相関」の関係になりやすい傾向があります。つまり、米ドルが買われる局面(ドル高)ではユーロ/米ドルは下落し、米ドルが売られる局面(ドル安)ではユーロ/米ドルは上昇しやすくなります。
③ユーロ/円 (EUR/JPY)
米ドル/円に次いで、日本人投資家に人気の高いクロス円通貨ペアです。米ドル/円の値動きに慣れた後の、次のステップとして選ばれることも多いです。
- 特徴:
- 米ドル/円よりボラティリティが高い:
EUR/JPY
は、EUR/USD
とUSD/JPY
の合成通貨ペアです。そのため、両方の値動きの影響を受け、米ドル/円よりも価格変動幅が大きくなる傾向があります。 - リスクセンチメントに敏感: いわゆる「リスクオン(投資家が積極的にリスクを取る姿勢)」の局面では、低金利の円を売って高金利通貨(かつてはユーロも)を買う「円キャリー取引」が活発化し、
EUR/JPY
は上昇しやすくなります。逆に「リスクオフ(リスク回避)」の局面では、この取引が巻き戻されて下落しやすいという特徴があります。
- 米ドル/円よりボラティリティが高い:
- 取引のポイント:
- 分析する際には、
EUR/JPY
のチャートだけでなく、構成要素であるEUR/USD
とUSD/JPY
のチャートも同時に確認することが重要です。両ペアの方向性が一致すると、EUR/JPY
では強いトレンドが発生しやすくなります。 - 当然ながら、日銀とECBの金融政策や、日本とユーロ圏の経済指標が主な変動要因となります。
- 分析する際には、
④ポンド/円 (GBP/JPY)
非常にボラティリティが高いことで有名で、一部のトレーダーからは「殺人通貨」「悪魔の通貨」といった異名で呼ばれることもある、ハイリスク・ハイリターンな通貨ペアです。
- 特徴:
- 極めて高いボラティリティ: 1日の値動きが2円、3円になることも珍しくなく、短時間で大きな利益を狙える可能性があります。しかし、それは同時に短時間で大きな損失を被るリスクと表裏一体です。
- スプレッドが広め: 値動きが激しい分、FX会社もリスクをヘッジする必要があるため、スプレッドは米ドル/円やユーロ/米ドルに比べて広く設定されています。
- 取引のポイント:
- 初心者が安易に手を出すのは非常に危険です。取引する場合は、徹底した資金管理と、損失を限定するための損切り注文(ストップロス)を必ず設定する必要があります。
- 英国の中央銀行であるイングランド銀行(BOE)の金融政策や、英国の経済指標に非常に強く反応します。
- ブレグジット(英国のEU離脱)問題のように、政治的なニュースや要人発言によって、テクニカル分析を無視して突発的な動きを見せることが多々あります。
- FX取引に十分慣れ、リスク管理に自信がついてから挑戦を検討すべき上級者向けの通貨ペアです。
⑤豪ドル/円 (AUD/JPY)
オーストラリアは鉄鉱石や石炭などの資源が豊富なため、豪ドルは「資源国通貨」の代表格とされています。AUD/JPY
は、その豪ドルと日本円のペアです。
- 特徴:
- 資源価格や中国経済との連動性: 豪ドルの価値は、主要な輸出品である鉄鉱石などの資源価格の動向に大きく影響されます。また、最大の貿易相手国である中国の経済動向と密接に連動する傾向があり、「中国の代理通貨」と見なされることもあります。
- クロス円の中ではボラティリティが高い: 米ドル/円よりは値動きが大きく、ユーロ/円と同程度かそれ以上のボラティリティがあります。
- リスクオンで買われやすい: 世界経済が好調な「リスクオン」の局面では、資源需要の増加期待から買われやすい傾向があります。
- 取引のポイント:
- 取引する際は、オーストラリア準備銀行(RBA)の金融政策だけでなく、中国のGDPや製造業PMIといった主要な経済指標を必ずチェックする必要があります。
- かつては日本との金利差が大きく、高金利通貨としてスワップポイント狙いの長期投資家に人気でしたが、現在は金利情勢が変化しているため、為替差益狙いのトレードが主流です。
⑥ポンド/米ドル (GBP/USD)
通称「ケーブル」と呼ばれ、外国為替市場で非常に長い歴史を持つ伝統的な通貨ペアです。EUR/USD
に次ぐ取引量を誇るドルストレートの一つです。
- 特徴:
- ドルストレートの中でも高いボラティリティ:
EUR/USD
と比較して値動きが激しいことで知られています。短期トレーダーに好まれる傾向があります。 - ロンドン時間に活発化: 取引が最も活発になるのは、世界最大の金融センターであるロンドン市場が開いている時間帯です。
- ドルストレートの中でも高いボラティリティ:
- 取引のポイント:
- イングランド銀行(BOE)と米FRB、両国の金融政策が最大の変動要因です。
GBP/JPY
と同様に、英国の政治情勢に敏感に反応するため、関連ニュースには常に注意を払う必要があります。- 値動きの激しさから、このペアも初心者向けというよりは、ある程度の経験を積んだ中上級者向けの通貨ペアと言えるでしょう。
⑦ニュージーランドドル/円 (NZD/JPY)
ニュージーランドもオーストラリアと同様、資源国(主に酪農製品などの農産物)であり、NZD/JPY
はAUD/JPY
と非常によく似た特徴を持つ通貨ペアです。
- 特徴:
- 豪ドル/円との強い相関性:
AUD/JPY
が上昇すればNZD/JPY
も上昇し、逆もまた然り、という強い正の相関関係にあります。これは、両国が地理的に近く、経済的にも中国への依存度が高いといった共通点があるためです。 - 豪ドル/円よりは取引量が少ない:
AUD/JPY
に比べると市場規模が小さく、ボラティリティも若干低い傾向にあります。
- 豪ドル/円との強い相関性:
- 取引のポイント:
- ニュージーランド準備銀行(RBNZ)の金融政策や、主要な輸出品である乳製品の国際価格動向が変動要因となります。
AUD/JPY
とセットで監視することで、オセアニア通貨全体の流れを掴みやすくなります。
FX初心者が取引を避けるべき通貨ペア
おすすめの通貨ペアがある一方で、初心者が手を出さない方が賢明な通貨ペアも存在します。リスク管理の観点から、どのようなペアを避けるべきかを具体的に解説します。
値動きが激しい通貨ペア
前述の「ポンド/円(GBP/JPY)」や「ポンド/米ドル(GBP/USD)」に代表される、英ポンド(GBP)が絡む通貨ペアは、総じてボラティリティが非常に高い傾向にあります。これらは短時間で大きな利益を得られる可能性がある反面、ほんの数分で強制ロスカットに至るような急激な価格変動に見舞われるリスクも常に伴います。
初心者のうちは、こうした激しい値動きに対して冷静な判断を保つことが難しく、感情的な取引(いわゆるポジポジ病や損切りできない病)に陥りがちです。まずは「米ドル/円」のような比較的穏やかな通貨ペアで、相場分析や資金管理、損切りのルールを徹底する訓練を積むことが先決です。十分に経験を積み、自分のトレードスタイルが確立してから、ボラティリティの高い通貨ペアに挑戦することを検討しましょう。
マイナー通貨・エキゾチック通貨
トルコリラ(TRY)、南アフリカランド(ZAR)、メキシコペソ(MXN)、ブラジルレアル(BRL)といった新興国の通貨を含むペアは、初心者は絶対に避けるべきです。
これらの通貨ペアには、以下のような極めて高いリスクが潜んでいます。
- 極端に広いスプレッド: 取引コストが非常に高く、利益を出すこと自体のハードルが高いです。買いポジションを持った瞬間に、大きなマイナスからスタートすることになります。
- 低い流動性: 市場参加者が少ないため、いざという時に取引が成立しなかったり、スリッページが頻発したりします。
- 情報の非対称性: 経済や政治に関する重要な情報を、一般の日本人投資家がタイムリーに入手することはほぼ不可能です。
- 深刻なカントリーリスク: これらの国々では、政情不安、経済危機、ハイパーインフレ、デフォルト(債務不履行)といった事態が突発的に発生する可能性があります。そうなれば、通貨価値は一瞬にして数10%も暴落し、投資資金の大部分を失うことになりかねません。過去には、こうした通貨の急変時にFX会社が一時的に取引を停止した例もあります。
一部のFX会社は、これらの通貨の高い金利差から得られる「高スワップポイント」を魅力としてアピールしていますが、そのスワップ収益をはるかに上回る為替差損のリスクを常に抱えていることを忘れてはなりません。初心者は、こうしたハイリスクな通貨ペアの甘い誘惑に乗らず、まずは安定したメジャー通貨の取引に専念しましょう。
取引前に知っておきたい主要通貨8つの特徴
通貨ペアへの理解をさらに深めるためには、ペアを構成する個々の通貨が持つ背景や特徴を知ることが不可欠です。ここでは、FXで主に取引される8つのメジャー通貨について、その性格や主な変動要因を解説します。
通貨 | 通称/特徴 | 主な変動要因 |
---|---|---|
米ドル(USD) | 基軸通貨、世界の中心。有事のドル買い。 | FRBの金融政策、米国の主要経済指標(雇用統計、CPI等)、世界的な地政学リスク |
日本円(JPY) | 安全資産。低金利のためリスクオフ時に買われやすい。 | 日銀の金融政策、日本の貿易収支、リスク回避局面での資金回帰 |
ユーロ(EUR) | 第2の基軸通貨。単一通貨としての特殊性。 | ECBの金融政策、ユーロ圏主要国(独・仏)の経済指標、域内の政治・経済情勢 |
英ポンド(GBP) | 高ボラティリティ。投機的な値動き。 | BOEの金融政策、英国の経済指標、政治的要因(ブレグジット関連等) |
豪ドル(AUD) | 資源国通貨(鉱物資源)。中国経済と連動。 | RBAの金融政策、鉄鉱石などの資源価格、中国の経済動向、リスク選好度 |
NZドル(NZD) | 資源国通貨(農産物)。豪ドルと連動。 | RBNZの金融政策、乳製品価格、中国の経済動向、豪ドルとの相関性 |
カナダドル(CAD) | 資源国通貨(原油)。米国経済と連動。 | BOCの金融政策、原油価格(WTI)、米国の経済動向(地理的・経済的関係) |
スイスフラン(CHF) | 究極の安全資産。永世中立国。 | SNBの金融政策、世界的な金融不安、リスク回避局面での逃避買い、ユーロとの相関 |
①米ドル(USD)
言わずと知れた世界の基軸通貨です。国際的な貿易や金融取引の決済に最も広く使われており、各国の外貨準備高でも最大の割合を占めます。そのため、FX市場における取引量も圧倒的で、すべての通貨ペアの値動きに何らかの影響を与えます。世界情勢が不安定になる「有事」の際には、資金の避難先として買われる「有事のドル買い」という現象も特徴的です。米国の経済指標やFRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策は、世界中の投資家が最も注目する材料です。
②日本円(JPY)
米ドルやスイスフランと並び、「安全資産」の一つと見なされています。日本は世界最大の対外純資産国であり、国内の政治・経済も比較的安定していることから、世界的な金融不安や地政学リスクが高まる「リスクオフ」の局面では、資金の逃避先として円が買われる(円高になる)傾向があります。また、長らく超低金利が続いてきたため、円を借りて海外の高金利通貨で運用する「円キャリー取引」の対象となりやすく、リスクオフ時にはこの取引の巻き戻し(円の買い戻し)が起こることも円高要因となります。
③ユーロ(EUR)
米ドルに次ぐ第2の基軸通貨とされ、EU(欧州連合)の加盟国27カ国のうち20カ国で使用されている単一通貨です。多くの国で使われているため、その価値はユーロ圏全体の経済状況を反映しますが、特に経済規模の大きいドイツやフランスの経済指標の影響を強く受けます。金融政策はECB(欧州中央銀行)が担っており、その政策決定はユーロの方向性を左右する最大の要因です。
④英ポンド(GBP)
かつて世界の基軸通貨であった歴史を持ち、現在でも主要通貨の一つとして活発に取引されています。最大の特徴は、メジャー通貨の中でも群を抜くボラティリティの高さです。投機的な資金が流入しやすく、政治的なニュース(特にブレグジット関連)や要人発言に過敏に反応し、激しい値動きを見せることが多々あります。その分、取引には高いリスク管理能力が求められます。
⑤豪ドル(AUD)
オーストラリアは鉄鉱石、石炭、金といった鉱物資源が豊富なため、豪ドルは資源国通貨の代表格です。これらの資源価格の動向、そして最大の輸出先である中国の経済情勢に価値が大きく左右されるという特徴があります。世界経済が好調な「リスクオン」局面で買われやすい傾向にあります。
⑥ニュージーランドドル(NZD)
ニュージーランドは酪農製品や羊肉などの農産物が主要な輸出品であるため、これも資源国通貨に分類されます。地理的・経済的な結びつきから、豪ドルと非常に強い相関関係(連動性)があり、「兄弟通貨」とも呼ばれます。豪ドルの値動きを見ながら取引することで、より精度の高い分析が可能になります。
⑦カナダドル(CAD)
カナダは世界有数の原油産出国であるため、カナダドルは原油価格と密接に連動することで知られています。米国のWTI原油先物価格のチャートとカナダドルのチャートを重ねると、類似した動きを見せることが多くあります。また、隣国である米国の経済と深く結びついているため、米国の景気動向からも大きな影響を受けます。
⑧スイスフラン(CHF)
永世中立国であるスイスの通貨であり、その高い政治的・経済的安定性から「究極の安全資産」と見なされています。世界的な金融危機や地政学リスクが極度に高まった際には、円やドル以上に資金の逃避先として買われることがあります。ただし、ユーロ圏と地理的・経済的に近いためユーロの値動きに影響されやすく、また、スイス国立銀行(SNB)による大規模な為替介入が行われることもあるため、注意が必要です。
取引する通貨ペアを増やすメリット・デメリット
FX取引に慣れ、一つの通貨ペアで安定的に利益を出せるようになると、次のステップとして「取引する通貨ペアを増やしてみようか」と考えるかもしれません。通貨ペアを増やすことにはメリットとデメリットの両方があります。これらを理解した上で、慎重に判断することが重要です。
通貨ペアを増やすメリット
取引チャンスが増える
最大のメリットは、トレード機会が格段に増えることです。為替相場は常に動いているわけではなく、特定の通貨ペアが方向感のないレンジ相場(横ばい)で膠着してしまうことは日常茶飯事です。監視している通貨ペアが1つだけだと、動き出すまで何時間も、あるいは何日も待たなければならないかもしれません。
しかし、監視対象を複数の通貨ペアに広げることで、あるペアがレンジ相場でも、別のペアでは明確なトレンドが発生している、といった状況を見つけやすくなります。また、通貨ペアごとに活発に動く時間帯は異なります。
- アジア時間: 円(JPY)、豪ドル(AUD)関連のペアが動きやすい。
- 欧州時間: ユーロ(EUR)、ポンド(GBP)関連のペアが主役になる。
- NY時間: ドル(USD)関連のペアが最も活発化し、重要な経済指標も多い。
これらを組み合わせることで、自分の生活リズムに合わせて、常にどこかの市場で取引チャンスを探すことが可能になります。
リスク分散ができる
投資の基本原則である「卵は一つのカゴに盛るな」という格言は、FXにも当てはまります。全ての資金を単一の通貨ペアに集中させていると、その通貨ペアが予測と反対に急落した場合、資産に深刻なダメージを受けてしまいます。
複数の通貨ペアに資金を分散させることで、こうしたリスクを軽減できます。例えば、ある通貨ペアで損失が出ても、別の通貨ペアの利益でカバーできる可能性があります。これがポートフォリオ効果です。
ただし、効果的なリスク分散を行うには、後述する「通貨間の相関性」を理解することが不可欠です。例えば、似たような値動きをするAUD/JPY
とNZD/JPY
を両方買うのは、リスク分散ではなくリスクの集中になってしまうため注意が必要です。
通貨ペアを増やすデメリット
分析に時間がかかり複雑になる
通貨ペアを増やすということは、監視・分析しなければならない対象がそれだけ増えることを意味します。各通貨ペアに関連する経済指標、金融政策、ニュースなどをすべて追うのは大変な作業です。
複数のチャートを同時に表示し、それぞれの値動きを把握しながらエントリーチャンスを探すのは、初心者にとっては非常に困難です。情報処理の負担が増えることで、かえって分析が浅くなり、一つ一つのトレードの精度が落ちてしまうという本末転倒な結果になりかねません。これが「器用貧乏」の状態です。
資金管理が難しくなる
複数のポジションを同時に保有すると、全体の証拠金維持率や合計損益の管理が複雑化します。特に、含み損を抱えたポジションが増えてくると、証拠金が圧迫され、他の健全なポジションまで危険に晒すことになりかねません。
「このペアは利益が出ているが、あのペアの損失が大きい」「全体の損益はプラスなのかマイナスなのか」といった状況把握が難しくなり、冷静な判断を下しにくくなります。一つのポジションのロスカットが、他のポジションのロスカットを誘発する「連鎖ロスカット」のリスクも高まります。
通貨ペア取引で利益を出すための3つのコツ
最後に、通貨ペアを選んだ後、実際に取引で利益を上げていくための実践的なコツを3つ紹介します。これらのポイントを意識することで、より戦略的にFXと向き合うことができます。
①最初は取引する通貨ペアを1〜2つに絞る
多くの初心者が犯しがちな過ちが、最初から手当たり次第に多くの通貨ペアに手を出してしまうことです。メリットの章で述べた「取引チャンスの増加」という魅力に惹かれる気持ちは分かりますが、それはデメリットを上回るリスクを伴います。
FXで成功するための最初のステップは、「選択と集中」です。まずは、本記事で紹介した「米ドル/円」のような、情報が多く、値動きが比較的安定している通貨ペアを1つだけ選びましょう。そして、その通貨ペアに徹底的に集中するのです。
- 過去のチャートを何年分も遡って検証する(バックテスト)。
- どのような経済指標やニュースに反応しやすいか、そのクセを肌で感じる。
- どの時間帯に動きやすく、どのテクニカル指標が機能しやすいかを探る。
このように、一つの通貨ペアを「知り尽くす」レベルまで研究し、そのペアで安定して勝てる自分なりの手法を確立すること。これが、遠回りに見えて、実は最も確実な上達への道です。その上で、余裕が出てきたら2つ目の通貨ペアを検討するのが賢明な手順です。
②通貨ペアごとの値動きの特徴や時間帯を把握する
通貨ペアには、それぞれ「個性」があります。その個性を理解することが、優位性のある取引に繋がります。
値動きの特徴(ボラティリティ):
例えば、USD/JPY
はトレンドが出ると一方向に進みやすいですが、EUR/USD
はレンジ相場を形成しやすい期間も多い、といった特徴があります。GBP/JPY
はとにかく値動きが激しい、など、ペアごとの性格を理解しましょう。自分の取引スタイル(トレンドフォローか、逆張りか)に合わせてペアを選ぶことが重要です。
活発に動く時間帯:
自分のライフスタイルに合わせて取引する時間帯を決め、その時間に最も活発に動く通貨ペアを選ぶのも有効な戦略です。
- 日中に仕事をしているサラリーマンの方: 仕事が終わった後の夜(ロンドン時間後半〜NY時間)がメインの取引時間になるでしょう。この時間帯は、
USD/JPY
、EUR/USD
、GBP/USD
といった欧米の通貨ペアが活発に動きます。 - 午前中に時間が取れる主婦の方: 東京市場がメインとなる午前中は、
USD/JPY
やAUD/JPY
といったオセアニア通貨関連のペアが比較的動きやすいです。
闇雲に取引するのではなく、勝負する時間帯と通貨ペアを絞り込むことで、無駄なエントリーを減らし、勝率を高めることができます。
③通貨間の相関性を理解する
相関性とは、2つの通貨ペアがどの程度、同じ方向または逆の方向に動くかを示す関係性のことです。これを理解することは、特に複数の通貨ペアを取引する上で、リスク管理の要となります。
- 正の相関: 2つの通貨ペアが同じような方向に動く関係。
- 例:
AUD/JPY
とNZD/JPY
(資源国通貨クロス円)、EUR/USD
とGBP/USD
(対米ドルでの欧州通貨) - 注意点: これらを同時に「買い」でエントリーすると、利益が出るときは大きくなりますが、損失が出るときも2倍のスピードで膨らみます。これはリスク分散ではなく、リスクを集中させる行為です。
- 例:
- 負の相関: 2つの通貨ペアが逆の方向に動く関係。
- 例:
USD/JPY
とEUR/USD
(米ドルが片方では決済通貨、もう片方では基軸通貨になっているため、ドル高局面ではUSD/JPY
は上昇、EUR/USD
は下落しやすい) - 活用法: 一方のポジションのヘッジ(保険)として、もう一方のポジションを建てる戦略も考えられますが、利益が相殺されやすいという側面もあります。
- 例:
この相関性は常に一定ではありませんが、大まかな傾向を掴んでおくだけでも、「知らず知らずのうちに同じようなリスクを取っていた」という事態を避けることができます。
【参考】世界のFX取引量 通貨ペアランキング
客観的なデータとして、国際決済銀行(BIS)が3年ごとに発表している外国為替市場の取引量調査の結果を見てみましょう。以下の表は、2022年4月の調査に基づく通貨ペア別の取引量シェアランキングです。
順位 | 通貨ペア | 全体シェア(2022年4月) | 分類 |
---|---|---|---|
1 | EUR/USD | 22.7% | ドルストレート |
2 | USD/JPY | 13.5% | ドルストレート |
3 | GBP/USD | 9.5% | ドルストレート |
4 | USD/CNY | 6.6% | ドルストレート |
5 | AUD/USD | 5.2% | ドルストレート |
6 | USD/CAD | 4.4% | ドルストレート |
7 | USD/CHF | 4.1% | ドルストレート |
8 | EUR/JPY | 3.0% | クロス円 |
9 | USD/HKD | 2.5% | ドルストレート |
10 | EUR/GBP | 2.0% | クロス通貨 |
参照:国際決済銀行(BIS) Triennial Central Bank Survey of Foreign Exchange and Over-the-counter (OTC) Derivatives Markets in 2022
このランキングから、以下のことが明確に分かります。
- 世界のFX取引は、圧倒的にドルストレートが中心であること。トップ10のうち8つが米ドル絡みのペアです。
EUR/USD
とUSD/JPY
の2大ペアだけで、市場全体の36%以上を占めていること。- 初心者が選ぶべきとされる通貨ペアが、実際に世界で最も活発に取引されているペアと一致していること。
この事実は、初心者がまず流動性の高いメジャーなドルストレートやクロス円から始めるべきというセオリーの強力な裏付けとなります。
FXの通貨ペアに関するよくある質問
最後に、FXの通貨ペアに関して初心者が抱きがちな疑問に、Q&A形式でお答えします。
最初のうちはいくつの通貨ペアに絞るべき?
結論から言うと、まずは「1つ」です。多くても2つまでにしてください。
理由は、本記事でも繰り返し述べてきた通り、1つの通貨ペアの値動きのクセや特徴を深く理解し、そのペアで勝てるようになることが最優先だからです。複数の通貨ペアを同時に監視すると、分析が散漫になり、結局どのペアでも中途半端なトレードに終わってしまいがちです。まずは「米ドル/円」なら「米ドル/円」のプロフェッショナルを目指すくらいの気持ちで集中することが、結果的に上達への近道となります。
一番儲かる・最強の通貨ペアはどれ?
残念ながら、「誰にとっても一番儲かる最強の通貨ペア」というものは存在しません。
なぜなら、最適な通貨ペアは、トレーダーの取引スタイル、資金力、リスク許容度、生活リズムによって全く異なるからです。
- 短時間で大きな利益を狙いたい上級者: ボラティリティの高い「ポンド/円」が候補になるかもしれません。
- コツコツと安定して利益を積み重ねたい初心者: 値動きが穏やかな「米ドル/円」が最適でしょう。
- テクニカル分析を重視するトレーダー: 流動性が高く素直な値動きをしやすい「ユーロ/米ドル」が好まれるかもしれません。
大切なのは、他人の意見に流されるのではなく、様々な通貨ペアの特徴を理解した上で、自分の性格やスタイルに合った「自分にとっての最強ペア」を見つけ出すことです。
通貨ペアの左側と右側の通貨は何を意味する?
これはFXの最も基本的なルールの一つです。
- 左側の通貨: 「基軸通貨(きじくつうか)」と呼ばれ、取引の主役となる通貨です。売買はこの基軸通貨に対して行われます。
- 右側の通貨: 「決済通貨(けっさいつうか)」と呼ばれ、基軸通貨の価値を表現するための通貨です。
例えば、「USD/JPY
= 150.00」というレートは、「1 USD(基軸通貨)が 150.00 JPY(決済通貨)の価値がある」ことを意味します。「USD/JPY
を買う」というのは、「米ドルを買い、円を売る」という行為になります。この基本は必ず覚えておきましょう。
まとめ
FX取引における通貨ペア選びは、単なるスタートラインでの選択ではなく、その後のトレード成績を大きく左右する戦略的な決断です。この記事では、通貨ペアの基本から選び方の具体的なポイント、おすすめのペア、そして取引のコツまでを詳しく解説してきました。
最後に、重要なポイントを改めて確認しましょう。
- 通貨ペアとは2つの通貨の組み合わせ。左が基軸通貨、右が決済通貨。
- 初心者が選ぶべき通貨ペアの4大原則は「①取引量が多く流動性が高い」「②スプレッドが狭い」「③情報が入手しやすい」「④値動きが比較的安定している」。
- まずは「米ドル/円」や「ユーロ/米ドル」といったメジャー通貨ペアから始めるのが王道。
- ポンド関連やマイナー通貨(エキゾチック通貨)はリスクが高いため、初心者は避けるべき。
- 利益を出すコツは、まず1つの通貨ペアに絞って徹底的に研究し、そのペアの「個性」を掴むこと。
FXの世界は奥深く、学ぶべきことはたくさんありますが、その第一歩は、自分に合った信頼できるパートナー、すなわち通貨ペアを見つけることから始まります。この記事で得た知識を武器に、慎重に通貨ペアを選び、焦らず、着実に経験を積んでいってください。それが、FXで長期的に成功を収めるための最も確かな道筋となるはずです。