FX(外国為替証拠金取引)は、平日であれば24時間いつでも取引できるのが魅力の一つです。しかし、年末年始の期間は、世界中の金融市場が休場となる影響で、通常の取引ルールとは異なる特別なスケジュールが組まれます。多くのトレーダーが休暇に入るこの時期は、市場の流動性が著しく低下し、スプレッドの拡大や突発的な価格変動(フラッシュ・クラッシュ)など、特有のリスクが発生しやすくなります。
何も知らずに普段通り取引をしようとすると、思わぬ損失を被ってしまう可能性も少なくありません。一方で、この時期特有の値動きを理解し、適切に対応することで、リスクを管理し、新たな取引機会を見出すことも可能です。
この記事では、FXの年末年始における取引スケジュールから、市場に現れる特徴、取引する上での具体的な注意点、さらにはトレーダーのレベル別のおすすめ戦略まで、網羅的に詳しく解説します。
本記事を読めば、年末年始の特殊な相場環境を乗り切り、安全に新年を迎えるための知識が身につきます。ぜひ最後までご覧いただき、ご自身のトレード戦略にお役立てください。
目次
FXの年末年始 取引スケジュール
FXの年末年始は、通常の取引時間とは大きく異なります。世界各国の祝日が絡み合うため、取引できる時間帯が変則的になったり、完全に取引が停止されたりします。ここでは、一般的な年末年始の取引スケジュールについて、期間ごとに詳しく見ていきましょう。
FX市場の年末年始はいつからいつまで?
FX市場における「年末年始」とは、一般的にクリスマスの時期である12月24日頃から、年明けの1月3日頃までを指します。この期間は、FX取引の主役である欧米の機関投資家や金融機関がクリスマス休暇や年末年始休暇に入るため、市場全体の活動が鈍くなります。
日本の感覚では「年末年始休暇」は12月29日頃から1月3日頃までが一般的ですが、FXはグローバルな市場であるため、キリスト教圏の祝日であるクリスマスが非常に大きな影響を与えます。 したがって、日本の市場がまだ動いている12月25日から、FX市場はすでに特別な警戒が必要な期間に入ると認識しておくことが重要です。
この期間は、市場参加者が少なくなることで、後述する「流動性の低下」という現象が顕著になります。これが、年末年始のFX取引を難しくする最大の要因です。
クリスマス期間(12月25日・26日)の取引時間
クリスマスは、FX市場に最も大きな影響を与えるイベントの一つです。
- 12月24日(クリスマスイブ): 通常よりも早く取引が終了する「短縮取引」となるFX会社がほとんどです。欧米市場が午後から休場に入るため、日本時間の深夜にかけて取引時間が短くなります。
- 12月25日(クリスマス): 世界中のほぼすべての金融市場が休場となります。そのため、インターバンク市場(銀行間市場)が完全に停止し、FX取引も終日できません。この日は、どのFX会社を利用していても取引は不可能です。
- 12月26日(ボクシング・デー): イギリス、オーストラリア、カナダなど多くの英連邦諸国で祝日です。そのため、ロンドン市場などが休場となり、FX会社によっては引き続き取引を停止したり、取引再開が遅れたりする場合があります。
このように、クリスマス期間は取引できない、あるいはできても非常に変則的なスケジュールとなります。この期間にポジションを持ち越していると、予期せぬ窓開け(前日の終値と当日の始値が大きく乖離すること)に巻き込まれるリスクが高まります。
年末(大晦日)の取引時間
大晦日(12月31日)は、多くの国で金融市場の営業日ですが、年間最終日ということで通常よりも早く取引を終了する「半休場(半ドン)」となる市場が多数です。
これに伴い、多くのFX会社でも取引時間が短縮されます。 日本時間の深夜、つまりニューヨーク市場が閉まる前に取引が終了するケースが一般的です。例えば、通常は翌朝の午前7時まで取引できる会社が、大晦日は深夜3時に終了する、といった具合です。
大晦日は、ポジション調整の売り買いが活発になる一方で、すでに多くの投資家が休暇に入っているため、やはり流動性は低い状態が続きます。薄い商いの中で、実需筋のフロー(輸出入企業の決済など)によって相場が大きく動く可能性も否定できません。
年始(元旦)の取引時間
元旦(1月1日)は、クリスマスと同様に世界中の金融市場が祝日(ニューイヤーズ・デー)のため休場となります。したがって、FX取引も終日できません。
取引が再開されるのは、通常1月2日の早朝からです。オセアニア市場のウェリントン市場、シドニー市場が開き始めるところから、徐々に取引がスタートします。
しかし、注意が必要なのはこの取引再開直後です。市場参加者がまだ少ない中で取引が始まるため、非常に不安定な値動きになりやすく、過去にはこのタイミングで「フラッシュ・クラッシュ」と呼ばれる相場の急落が発生したこともあります。1月3日頃まではまだ休暇中の市場参加者も多く、本格的に市場が正常化するのは、1月の第1週が終わる頃と考えておくと良いでしょう。
FX会社ごとの詳しいスケジュールを確認しよう
ここまで一般的なスケジュールを解説してきましたが、最終的な取引時間は利用しているFX会社によって異なります。 なぜなら、各FX会社が提携しているカバー先の金融機関(リクイディティ・プロバイダー)の休業スケジュールに依存するからです。
そのため、年末年始に取引を検討している場合は、以下の方法で必ずご自身の利用するFX会社の正確なスケジュールを確認してください。
- FX会社の公式サイトにある「お知らせ」や「ニュース」欄を確認する
- 登録しているメールアドレスに届く案内メールを確認する
- 取引ツール内のインフォメーションを確認する
これらの情報は通常、12月の中旬頃までには発表されます。「自分の使っている会社は大丈夫だろう」という思い込みは非常に危険です。 後述する主要FX会社のスケジュールも参考にしつつ、必ず一次情報である公式サイトでの確認を徹底しましょう。
年末年始のFX市場に見られる3つの特徴
年末年始のFX市場は、普段とは全く異なる顔を見せます。その特殊な環境を生み出す主な特徴は3つあります。これらの特徴を理解することが、リスクを管理し、年末年始相場を乗り切るための第一歩です。
① 市場参加者が減り流動性が低下する
年末年始のFX市場で最も注意すべき最大の特徴が「流動性の低下」です。
「流動性」とは、市場における取引の活発さや、売買のしやすさを示す言葉です。 流動性が高い状態とは、市場にたくさんの買い手と売り手が存在し、いつでも好きな価格で、希望する量の取引が成立しやすい状況を指します。逆に流動性が低い状態とは、市場参加者が少なく、取引が閑散としている状況のことです。
では、なぜ年末年始に流動性が低下するのでしょうか。その主な理由は、FX市場の主要プレイヤーである欧米の機関投資家(銀行、ヘッジファンド、年金基金など)がクリスマス休暇や年末年始休暇に入るためです。彼らは巨額の資金を動かして市場に厚みをもたらしているため、彼らが市場からいなくなると、取引量が激減し、市場は一気に閑散とします。
この流動性の低下は、トレーダーにとって以下のような具体的な悪影響を及ぼします。
- 注文が滑りやすくなる(スリッページ): 成行注文や逆指値注文(ストップロス)を出した際に、指定した価格ではなく、それよりも不利な価格で約定してしまう現象です。市場に注文が少ないため、自分の注文を吸収してくれる反対注文がすぐに見つからず、レートが滑ってしまいます。
- 約定拒否(リクオート)が発生しやすくなる: FX会社が提示したレートで注文を出しても、そのレートを提示できるカバー先が見つからず、注文が弾かれてしまう現象です。これも流動性の低さが原因です。
- スプレッドが広がりやすくなる: 次の項目で詳しく解説しますが、流動性の低下はスプレッドの拡大に直結します。
このように、流動性の低下は「思った通りの取引ができない」という状況を生み出します。普段と同じ感覚で取引していると、予期せぬスリッページで損失が拡大したり、利益確定のタイミングを逃したりするリスクが高まるのです。
② スプレッドが広がりやすくなる
流動性の低下と密接に関係しているのが「スプレッドの拡大」です。
「スプレッド」とは、通貨ペアを売るときの価格(Bid)と買うときの価格(Ask)の差のことで、これがトレーダーにとっての実質的な取引コストになります。スプレッドは常に一定ではなく、市場の状況によって変動します。
年末年始のように流動性が著しく低下すると、スプレッドは通常時よりも大幅に広がる傾向があります。そのメカニズムは以下の通りです。
- インターバンク市場のレート提示が減る: FX会社は、インターバンク市場に参加する複数の金融機関から為替レートの提示を受け、それを基に投資家向けのレートを生成しています。
- 市場参加者の減少: 年末年始は、このレートを提示する金融機関自体が休暇に入り、その数が激減します。
- 不利なレートしかなくなる: レート提示が減ると、FX会社は投資家の注文をカバーするために、通常よりも不利なレート(=広いスプレッド)を受け入れざるを得なくなります。
- リスクヘッジのためにスプレッドを広げる: また、FX会社自身も、流動性が低い中での価格変動リスクをヘッジするために、意図的にスプレッドを広げて防衛策を取ります。
結果として、普段はドル/円で0.2銭原則固定といった狭いスプレッドを提供しているFX会社でも、年末年始には数銭、場合によっては数十銭にまでスプレッドが拡大することがあります。
スプレッドの拡大は、取引コストの増大を意味します。特に、スキャルピングのように小さな利益を積み重ねる取引スタイルにとっては致命的です。エントリーした瞬間に大きなマイナスからスタートすることになり、利益を出すこと自体が非常に困難になります。また、スプレッドの拡大はロスカットのリスクも高めます。含み損が拡大し、有効証拠金が減ることで、意図せずロスカットラインに達してしまう可能性があるのです。
③ 突発的な価格変動(フラッシュ・クラッシュ)が起きやすい
年末年始の相場で最も恐れられているのが「フラッシュ・クラッシュ」です。
「フラッシュ・クラッシュ」とは、明確なファンダメンタルズ(経済的要因)の裏付けがないまま、ごく短時間のうちに為替レートが急騰または急落する現象を指します。これは、前述した「流動性の低下」が引き起こす最悪のシナリオの一つです。
市場の流動性が低い(取引板が薄い)状態では、通常時であれば相場にほとんど影響を与えないような少額の売買注文でも、価格を大きく動かす引き金になり得ます。 例えば、ある投機筋が意図的に大きな売り注文を出したとします。市場に買い手が少ないため、価格は一気に下落します。すると、その下落によって、多くのトレーダーが設定していた損切り注文(ストップロス)が連鎖的に発動し、さらなる下落を呼び、パニック的な売りが売りを呼ぶ展開となって、短時間で相場が暴落するのです。
実際に、2019年1月3日の早朝には、アップル社の業績下方修正をきっかけに、流動性が極端に低い中でリスク回避の円買いが殺到し、ドル/円がわずか数分で約4円も暴落するフラッシュ・クラッシュが発生しました。この時、多くの個人投資家が強制ロスカットに遭い、中には口座資金がマイナスになる「追証(おいしょう)」が発生したケースもありました。
フラッシュ・クラッシュは、いつ、どの通貨ペアで発生するかを予測することは極めて困難です。特に、年末年始の休暇が明けて間もない早朝の時間帯(日本時間)は、まだロンドン市場やニューヨーク市場が動いていないため流動性が最も低い時間帯の一つであり、特に警戒が必要です。このような予測不可能な暴騰・暴落のリスクが、年末年始のFX市場には常に潜んでいることを肝に銘じておく必要があります。
年末年始にFX取引をする際の6つの注意点
年末年始のFX市場が特有のリスクをはらんでいることをご理解いただけたかと思います。では、こうした特殊な相場環境で取引を行う場合、具体的にどのような点に注意すればよいのでしょうか。ここでは、資産を守り、無用な損失を避けるための6つの重要な注意点を解説します。
① ポジションを持ち越さず年内に決済する
年末年始にFX取引をする上で、最も基本的かつ重要な鉄則は「ポジションを年を越して持ち越さない(オーバーイヤーしない)」ことです。可能であれば、クリスマス休暇に入る前の12月23日頃までには、すべてのポジションを手仕舞い、ノーポジションで新年を迎えるのが最も安全な策と言えます。
ポジションを持ち越すこと(特に市場が完全に閉まるクリスマスや元旦をまたぐこと)には、以下のような極めて高いリスクが伴います。
- 「窓開け」による強制ロスカットのリスク: 市場が閉まっている間に、地政学リスクの発生や重要な経済ニュースが報じられた場合、休暇明けの市場再開時に価格が大きく乖離して始まる「窓開け(ギャップダウン/ギャップアップ)」が発生する可能性があります。例えば、1ドル150円で買いポジションを持っていたとして、休暇明けに145円から取引が始まると、設定していた148円の損切りラインは機能せず、145円で強制的に決済されてしまい、想定をはるかに超える損失を被る危険性があります。
- フラッシュ・クラッシュのリスク: 前述の通り、休暇明け直後の流動性が低い時間帯はフラッシュ・クラッシュが発生しやすいタイミングです。ポジションを保有したままこの時間帯を迎えるのは、非常に危険です。
- 精神的な負担: ポジションを保有したまま休暇に入ると、「休暇中に何か大きな事件が起きたらどうしよう」という不安が常に付きまといます。せっかくの年末年始を心穏やかに過ごすためにも、ポジションの整理は重要です。
特に、高いレバレッジをかけているポジションの持ち越しは絶対に避けるべきです。わずかな窓開けでも、一瞬で口座資金が吹き飛ぶ可能性があります。利益が出ているポジションであっても、欲張らずに年内に利益を確定させることが賢明な判断です。
② 損切り注文を必ず設定する
もし、どうしても年末年始に取引を行うのであれば、損切り(ストップロス)注文を入れずに取引することは自殺行為に等しいと心得てください。損切り注文は、予期せぬ相場の急変動から自分の資産を守るための最後の命綱です。
年末年始の市場は、いつ何が起こるか予測が非常に困難です。少し目を離した隙に相場が急変し、気づいた時には取り返しのつかないほどの含み損を抱えていた、という事態を避けるために、新規でポジションを建てると同時に、必ず損切り注文も設定する習慣を徹底しましょう。
ただし、ここで一つ注意点があります。それは、流動性が低い年末年始の相場では、設定した損切り注文が指定した価格で約定しない「スリッページ」が発生しやすいことです。そのため、損切りラインは「ここまで下がったら損失を確定する」という最終防衛ラインとして設定しつつも、それに頼り切るのではなく、常にチャートを監視し、危険を察知したら早めに手動で決済することも重要です。
また、IFD注文(イフダン注文)やOCO注文(オーシーオー注文)といった特殊注文を活用するのも有効です。例えば、OCO注文を使えば、利益確定の指値注文と損失限定の逆指値注文を同時に出せるため、リスク管理をより自動化できます。
③ レバレッジを低くしてリスク管理する
レバレッジはFXの大きな魅力ですが、年末年始のようなボラティリティ(価格変動率)が高くなりやすい相場では、諸刃の剣となります。普段と同じような高いレバレッジで取引すると、わずかな価格変動でも大きな損失につながり、強制ロスカットのリスクが格段に高まります。
年末年始に取引をする際は、意識的にレバレッジを低く抑えることが極めて重要です。具体的には、実効レバレッジ(ポジションの総評価額 ÷ 有効証拠金)を2~3倍、多くても5倍程度に抑えるのが賢明です。
例えば、1ドル150円の時に1万通貨(150万円相当)のポジションを持つ場合を考えてみましょう。
- 証拠金10万円で持つと、実効レバレッジは15倍(150万円 ÷ 10万円)です。
- 証拠金50万円で持つと、実効レバレッジは3倍(150万円 ÷ 50万円)になります。
実効レバレッジが低いほど、証拠金維持率に余裕が生まれ、相場の急変動に対する耐久力が高まります。スプレッドが急拡大した際にも、証拠金維持率の低下を緩やかにし、ロスカットを回避しやすくなります。
「いつもより儲けにくい相場だからこそ、レバレッジを上げて一発当てたい」という考えは非常に危険です。年末年始は「利益を狙う」ことよりも「いかに資産を減らさないか」という守りの姿勢で臨むことが、結果的に長く市場で生き残るための秘訣です。
④ 経済指標カレンダーを事前に確認する
多くの市場参加者が休暇に入るとはいえ、年末年始の期間中も経済指標が全く発表されないわけではありません。特に、主要国以外の国では通常通り、あるいは少し変則的なスケジュールで経済指標が発表されることがあります。
流動性が低い市場では、普段ならあまり注目されないような国の経済指標の結果でも、相場を大きく動かす材料となる可能性があります。例えば、取引している通貨ペアに関連する国の指標発表時間に、予期せずスプレッドが拡大したり、価格が急に動いたりすることがあります。
そのため、取引を行う前には、必ず経済指標カレンダーに目を通し、自分が取引しようとしている通貨ペアに関連する国の祝日や、指標発表の有無、その時間帯を正確に把握しておくことが重要です。自分が寝ている間や、チャートを見ていない時間に重要な指標発表が控えている場合は、その前にポジションを決済しておくなどの対策が必要になります。
⑤ テクニカル分析が機能しにくいと心得る
テクニカル分析は、過去の価格データ(チャート)から将来の値動きを予測する手法です。移動平均線、MACD、RSIといったインジケーターや、トレンドライン、サポートライン、レジスタンスラインなどは、多くの市場参加者が同じものを見て意識することで機能します。つまり、テクニカル分析は「市場参加者の集団心理」を読み解くためのツールと言えます。
しかし、市場参加者の数が激減する年末年始は、この「集団心理」という大前提が崩れてしまいます。その結果、普段は有効に機能しているテクニカル分析が、全く役に立たなくなる、あるいは「ダマシ」が多くなる傾向があります。
- きれいに引けていたトレンドラインを簡単にブレイクしたと思ったら、すぐに戻ってくる。
- サポートラインで反発するはずが、あっさり突き抜けてしまう。
- インジケーターが買いサインを示しているのに、価格は下落を続ける。
こういった現象が頻発します。また、市場には人間だけでなく、アルゴリズムによる高速取引(HFT)も存在します。流動性が低い中では、こうしたアルゴリズムの売買が気まぐれな値動きを作り出し、テクニカル分析をさらに機能不全に陥らせることがあります。
年末年始に取引をする場合は、「テクニカル分析は普段通りには機能しない」ということを常に念頭に置き、過信しないことが大切です。テクニカル分析を一つの目安としつつも、それだけに頼ったエントリーは避けるべきでしょう。
⑥ 無理に取引をしない
これまで挙げてきた5つの注意点を踏まえた上で、最も重要な心構えが「無理に取引をしない」ことです。相場の世界には「休むも相場」という有名な格言があります。これは、常に取引をし続けることだけが投資ではなく、相場が難しい局面では取引を休んで静観することも、立派な戦略の一つであるという意味です。
年末年始の市場は、プロのトレーダーでさえも取引を手控えることが多い、非常に特殊でリスクの高い期間です。
- スプレッドが広く、取引コストが高い。
- 値動きの予測が困難で、テクニカル分析が機能しにくい。
- フラッシュ・クラッシュのリスクがあり、一瞬で大きな損失を被る可能性がある。
このようなリスクに見合うだけのリターンが期待できるかというと、多くの場合は「No」です。無理に利益を追い求めた結果、コツコツと積み上げてきた利益を年末の数日間で失ってしまっては元も子もありません。
もし少しでも「今の相場は難しいな」「自信がないな」と感じたら、勇気を持って取引を休みましょう。その時間を使って、今年一年間の自分の取引を振り返り、良かった点や悪かった点を分析したり、FXに関する本を読んで知識を深めたり、来年の相場に向けた戦略を練ったりする時間に充てる方が、よほど有意義な過ごし方と言えるでしょう。
年末年始は取引すべき?レベル別のおすすめ戦略
ここまで年末年始のFX市場の特徴と注意点を解説してきましたが、「結局、取引すべきなのか、しないべきなのか」と迷う方も多いでしょう。結論から言うと、その答えはトレーダーの経験やスキルレベルによって異なります。ここでは、初心者と上級者に分けて、それぞれにおすすめの戦略を提案します。
初心者は無理せず休むのがおすすめ
もしあなたがFXを始めてまだ日が浅い初心者、あるいはコンスタントに利益を上げられていないトレーダーであるならば、年末年始は取引を完全に休むことを強くおすすめします。
理由はこれまでに述べてきた通りです。
- リスクが高すぎる: スプレッドの拡大、スリッページ、フラッシュ・クラッシュなど、初心者には対処が非常に難しいリスクが満載です。特殊な相場環境は、経験の浅いトレーダーから容赦なく資金を奪っていきます。
- 分析が通用しない: 普段練習しているテクニカル分析や手法が通用しにくいため、トレードの根拠が曖昧になりがちです。根拠のないギャンブルのような取引は、損失につながる可能性が極めて高いです。
- 学ぶ機会が少ない: 不規則で気まぐれな値動きが多いため、この時期の相場からトレードスキル向上のための有益な学びを得ることは困難です。むしろ、悪い癖がついてしまう可能性すらあります。
年末年始は、アクティブに取引をして利益を狙う時期ではありません。初心者が大きなリスクを冒してまで参入するメリットは、ほとんどないと言っていいでしょう。
では、この期間をどう過ごすべきか。絶好の「学習期間」と捉えましょう。
- 今年1年間の取引記録を見返す: 自分のトレード履歴を分析し、得意なパターン、苦手なパターン、勝ちトレードと負けトレードの要因などを徹底的に洗い出します。
- FXの基礎を学び直す: 書籍や信頼できるウェブサイトで、ファンダメンタルズ分析やテクニカル分析の知識を深めます。
- デモトレードで練習する: リアルマネーを使わずに、新しい手法やインジケーターを試してみるのも良いでしょう。(ただし、年末年始のデモ口座のレートもリアルと同様に不安定な場合がある点には注意が必要です)
- 来年の取引戦略を立てる: 自分のライフスタイルに合った取引時間、通貨ペア、資金管理ルールなどをじっくりと練り直します。
焦ってリスクの高い市場に飛び込むよりも、ここでしっかりと知識と戦略を蓄えることが、来年以降の飛躍につながります。 「休むも相場」を実践し、万全の準備を整えて新しい年の相場に臨みましょう。
上級者は短期トレードに徹する
一方で、長年のトレード経験があり、資金管理とリスク管理を徹底できる上級者にとっては、年末年始の特殊な相場も取引機会となり得ます。ただし、その場合でも普段通りの取引スタイルが通用するわけではありません。上級者が年末年始相場に臨む際の鉄則は「短期トレードに徹する」ことです。
ポジションの保有時間を極力短くし、日をまたぐスイングトレードや、数時間にわたるデイトレードも避けるべきです。狙うべきは、数分から数十分で決済を完了させる、以下のような超短期売買です。
レンジ相場を狙ったスキャルピング
年末年始は、大きなトレンドが発生しにくい一方で、市場参加者が少ないために特定の価格帯で値動きが停滞する「レンジ相場」を形成することも少なくありません。特に、欧米の主要市場が閉まっている時間帯などは、非常に狭い値幅で価格が上下動を繰り返すことがあります。
この静かなレンジ相場を狙い、サポートライン付近で買い、レジスタンスライン付近で売るという逆張りのスキャルピングは、上級者向けの戦略の一つです。
注意点:
- スプレッドの確認: 必ずスプレッドが十分に狭いことを確認してからエントリーします。スプレッドが広い状態では、値幅が狭いレンジ相場では利益を出すことができません。
- 欲張らない: ごくわずかな値幅(数pips)を狙い、利が乗ったらすぐに決済します。大きな利益を狙うと、レンジをブレイクした際に大きな損失につながります。
- 損切りは徹底: レンジを明確にブレイクしたら、潔く損切りします。「いずれ戻ってくるだろう」という期待は禁物です。
この手法は、高い集中力と素早い判断力が求められるため、まさに上級者向けの戦略と言えるでしょう。
突発的な値動きを狙う
流動性の低さは、レンジ相場を生み出す一方で、わずかな材料で価格が急騰・急落するという側面も持っています。この突発的な値動きを狙うのも、ハイリスク・ハイリターンを許容できる上級者ならではの戦略です。
例えば、何らかのニュースや要人発言をきっかけに価格が一方向に動き始めた瞬間に、その流れに乗って順張りでエントリーし、動きが止まった瞬間に素早く決済します。あるいは、フラッシュ・クラッシュのような急騰・急落が発生した後の、行き過ぎた価格が修正される動き(リバウンド)を狙って逆張りでエントリーする方法もあります。
注意点:
- 極めてハイリスク: この手法はフラッシュ・クラッシュのリスクと表裏一体です。一瞬の判断ミスが致命的な損失につながる可能性があります。
- 損切りは必須中の必須: エントリーと同時に、必ず浅めの損切り注文を入れます。スリッページのリスクも考慮し、最悪の事態を想定しておく必要があります。
- 低レバレッジで行う: 万が一の事態に備え、レバレッジは極限まで低く抑え、失っても問題ないと思える範囲の少額資金で臨むべきです。
この戦略は、相場の急変に瞬時に対応できる反射神経と、強靭な精神力を持つ、ごく一部のトレーダーのみに許された手法と言えます。安易に真似をすることは絶対に避けるべきです。
【2024-2025年】主要FX会社の年末年始取引時間
ここでは、国内の主要FX会社における年末年始の取引時間について解説します。
【重要】以下の情報は、過去(2023-2024年)の実績や一般的な傾向を元にした参考情報です。2024-2025年の正式な取引スケジュールは、12月中旬頃に各社から発表されます。取引を行う前には、必ずご自身の利用するFX会社の公式サイトで最新の正確な情報をご確認ください。
イベント | 日付(目安) | 取引時間の傾向 | 注意点 |
---|---|---|---|
クリスマスイブ | 12月24日 | 短縮取引(日本時間25日早朝に終了) | 通常より早く取引が終了します。 |
クリスマス | 12月25日 | 終日取引停止 | ほぼ全てのFX会社で取引できません。 |
ボクシングデー | 12月26日 | 短縮取引 または 終日取引停止 | 会社により対応が異なります。取引再開が遅れる場合があります。 |
大晦日 | 12月31日 | 短縮取引(日本時間1日早朝に終了) | 通常より早く取引が終了します。 |
元旦 | 1月1日 | 終日取引停止 | 全てのFX会社で取引できません。 |
仕事始め | 1月2日 | 早朝より取引再開 | 流動性が極端に低く、値動きが不安定になりやすいです。 |
以下に、各社の一般的な傾向と、情報確認のポイントをまとめます。
GMOクリック証券
GMOクリック証券(FXネオ)は、国内最大手のFX会社の一つです。例年、公式サイトの「お知らせ」ページにて、クリスマスおよび年末年始の取引時間に関する詳細な案内が掲載されます。
- クリスマスイブ: 取引終了時間が早まる傾向にあります。
- クリスマス・元旦: 終日取引停止となります。
- 大晦日: 取引終了時間が早まる傾向にあります。
- 確認方法: GMOクリック証券の公式サイトにアクセスし、「ニュース・お知らせ」のセクションを確認しましょう。「年末年始」などのキーワードで検索すると、該当の案内が見つけやすくなります。
(参照:GMOクリック証券公式サイト)
DMM FX
DMM FXも非常に人気のあるFX会社です。例年、年末年始のスケジュールについては、公式サイトの「重要なお知らせ」や、取引ツール内のインフォメーションで告知されます。
- クリスマス期間: 例年、12月25日は終日停止、その前後は短縮取引となることが多いです。
- 年末年始: 元旦は終日停止、大晦日は短縮取引となるのが通例です。
- 確認方法: DMM FXの公式サイトトップページにある「重要なお知らせ」を定期的にチェックするか、顧客向けに配信されるメールの内容を確認することが重要です。
(参照:DMM.com証券公式サイト)
外為どっとコム
老舗のFX会社である外為どっとコムも、詳細な取引スケジュールを事前に公開します。「外為情報ナビ」などの情報コンテンツも充実しているため、市場の見通しと合わせて確認すると良いでしょう。
- スケジュール: 他社と同様に、クリスマスと元旦は休場、その前後は短縮取引となるのが基本です。
- スプレッド: 年末年始のスプレッド拡大に関する注意喚起も丁寧に行われることが多いです。
- 確認方法: 外為どっとコムの公式サイトにアクセスし、「マーケット情報」や「お知らせ」のセクションを確認してください。
(参照:外為どっとコム公式サイト)
みんなのFX
「みんなのFX」を提供するトレイダーズ証券も、利用者向けに分かりやすい案内を出しています。特にスプレッドの狭さで人気ですが、年末年始はこの原則が適用されない可能性があることを理解しておく必要があります。
- スケジュール: 基本的なスケジュールは他社に準じます。クリスマス・元旦は休場、大晦日などは短縮取引です。
- 仮想通貨CFD: FXだけでなく、仮想通貨(暗号資産)CFDも提供しているため、そちらの取引スケジュールも併せて確認が必要です(後述)。
- 確認方法: みんなのFX公式サイトのトップページや、マイページ内のお知らせを確認しましょう。
(参照:トレイダーズ証券公式サイト)
OANDA Japan
OANDA Japanは、グローバルに展開するOANDAグループの日本法人です。そのため、よりグローバル基準の取引時間を提供している点が特徴です。
- 特徴: 他の国内FX会社よりも取引時間が若干長い場合がありますが、それでも主要な祝日には取引が停止されます。
- 情報提供: OANDAは分析ツールやマーケット情報が豊富なため、年末年始の市場分析に関するコンテンツも参考にすると良いでしょう。
- 確認方法: OANDA Japan公式サイトの「重要なお知らせ」セクションで、取引時間の変更に関する詳細が発表されます。
(参照:OANDA Japan公式サイト)
サクソバンク証券
デンマークに本拠を置くサクソバンクグループの日本法人で、プロ向けの取引環境を提供しています。取扱商品が非常に多いため、それぞれの商品で年末年始のスケジュールが異なる点に注意が必要です。
- 特徴: FXだけでなく、株式CFD、商品CFDなど多数の商品を扱っています。FX以外の取引を考えている場合は、商品ごとのスケジュールを個別に確認する必要があります。
- スケジュール: 基本的なFXの休場スケジュールは他社と同様ですが、マイナー通貨ペアなどは特に流動性の影響を受けやすいため注意が必要です。
- 確認方法: サクソバンク証券の公式サイトにログインし、取引プラットフォーム上のお知らせや、コーポレートサイトのニュースリリースを確認してください。
(参照:サクソバンク証券公式サイト)
FXの年末年始に関するよくある質問
最後に、FXの年末年始に関してトレーダーが抱きがちな疑問について、Q&A形式で分かりやすくお答えします。
なぜ年末年始は取引時間が変わるのですか?
FX取引は、特定の取引所を介して行われる株式取引とは異なり、世界中の銀行や金融機関が相対で取引を行う「インターバンク市場」がその中心にあります。私たちが利用するFX会社は、このインターバンク市場から為替レートの提供を受けて、私たちに取引サービスを提供しています。
年末年始、特にクリスマス(12月25日)や元旦(1月1日)は、世界共通の祝日であり、為替取引の中心地であるロンドンやニューヨークをはじめ、世界中の金融市場が休場となります。
金融市場が休場するということは、インターバンク市場に参加している銀行や金融機関も休みに入るということです。その結果、為替レートの配信そのものがストップしてしまうため、FX会社も私たちに取引サービスを提供できなくなり、取引時間が変更(短縮・停止)されるのです。
日本の祝日でもFX取引はできますか?
はい、日本の祝日(ゴールデンウィーク、海の日、敬老の日など)でも、基本的にFX取引は可能です。
FXはグローバルな市場であるため、日本が祝日で東京市場が休場していても、海外のロンドン市場やニューヨーク市場が開いていれば、為替レートは変動し、取引を行うことができます。
ただし、注意点もあります。東京市場は世界三大市場の一つであり、取引量が多いため、東京市場が休場すると市場全体の取引量が減少し、値動きが小さくなる(動かなくなる)傾向があります。 また、取引量が少ない中で日本の輸出入企業などによる実需の取引が行われると、一時的に相場が動くこともありますが、トレンドが発生しにくく、取引が難しいと感じるかもしれません。
年末年始と日本の祝日の違いは、「世界中の市場が休むか、一部の市場だけが休むか」という点にあります。年末年始は世界的に市場が止まるため取引不可となりますが、日本の祝日は他の市場が動いているため取引可能、と覚えておきましょう。
年末年始にMT4やMT5は使えますか?
はい、世界中のトレーダーに利用されている高機能取引プラットフォームであるMT4(MetaTrader 4)やMT5(MetaTrader 5)自体は、年末年始でも起動して使うことができます。
しかし、これはあくまでプラットフォームが使えるというだけで、取引ができるかどうかは別の話です。FX会社がレート配信を停止している時間帯(クリスマスや元旦など)は、MT4/MT5を起動してもチャートは更新されず、新規注文や決済注文を出すこともできません。 チャートが動いていない時に注文を出そうとすると、「回線不通」や「オフクオート」といったエラーメッセージが表示されます。
一方で、レート配信が止まっている時間帯でも、以下のような作業は可能です。
- 過去のチャートデータを使った分析や検証
- EA(エキスパートアドバイザー、自動売買プログラム)のバックテスト
- カスタムインジケーターの設定や調整
ただし、EAを稼働させっぱなしにして休暇に入るのは非常に危険です。前述の通り、休暇明けの窓開けやフラッシュ・クラッシュによって、EAが予期せぬロジックで暴走し、大きな損失を出す可能性があります。年末年始はEAの稼働を停止しておくのが賢明です。
仮想通貨(暗号資産)CFDの取引時間はどうなりますか?
FX会社の中には、「みんなのFX」や「GMOクリック証券」のように、FX(為替)だけでなく、ビットコインやイーサリアムといった仮想通貨(暗号資産)のCFD取引を提供しているところもあります。
現物の仮想通貨市場は、特定の管理者や市場が存在しないため、基本的に24時間365日、土日祝日や年末年始も関係なく動き続けています。
しかし、FX会社が提供する「仮想通貨CFD」の場合は話が別です。 これはあくまでFX会社を介した差金決済取引であり、その会社のルールに従う必要があります。多くのFX会社では、サーバーメンテナンスのために土日の特定の時間帯に取引を停止しています。
同様に、年末年始もFX取引と同じように、会社の定める特別スケジュールによって取引時間が短縮されたり、一時的に停止されたりする可能性があります。 「仮想通貨だから年末年始も普通に取引できるだろう」と思い込まず、FXと同様に、利用している会社の公式サイトで仮想通貨CFDの年末年始スケジュールを必ず確認するようにしてください。
まとめ
今回は、FXの年末年始における取引時間、市場の特徴、そして安全に取引するための注意点について詳しく解説しました。
最後に、この記事の重要なポイントをまとめます。
- 年末年始の取引は特別: FXの年末年始は、クリスマスから1月3日頃までを指し、取引時間が短縮・停止される特殊な期間です。
- 市場の3大特徴: この時期の市場は、「①市場参加者が減り流動性が低下する」「②スプレッドが広がりやすくなる」「③突発的な価格変動(フラッシュ・クラッシュ)が起きやすい」という3つの危険な特徴を持っています。
- 取引の6大注意点: リスクを回避するためには、「①ポジションを持ち越さない」「②損切り注文を必ず設定する」「③レバレッジを低くする」「④経済指標カレンダーを確認する」「⑤テクニカル分析を過信しない」「⑥無理に取引をしない」という6つの鉄則を守ることが重要です。
- レベル別戦略: 初心者は無理せず「休むも相場」を実践し、学習期間に充てるのが最善の策です。 一方、リスク管理を徹底できる上級者は、レンジ相場でのスキャルピングなど、超短期トレードに徹するという選択肢もあります。
- 公式情報の確認は必須: 各FX会社の正確な取引スケジュールは、必ず公式サイトのお知らせなどで一次情報を確認してください。
年末年始のFX市場は、一攫千金のチャンスがある場所というよりは、むしろ資産を失いかねない危険な罠が多く潜む場所です。大切なことは、利益を追い求めることよりも、まずは自分の大切な資産を守り抜くこと。
ポジションをすっきりと整理し、心穏やかに新年を迎える。そして、来年の相場に向けて英気を養い、新たな戦略を練る。それこそが、長期的に市場で成功を収めるための賢明なトレーダーの選択と言えるでしょう。この記事が、あなたの年末年始のトレード計画の一助となれば幸いです。