FX(外国為替証拠金取引)の世界では、24時間変動し続ける市場から利益を得るために、多くのトレーダーが日夜チャートと向き合っています。しかし、仕事や私生活で忙しい現代人にとって、常に市場を監視し、最適なタイミングで取引を行うことは決して容易ではありません。そこで注目を集めているのが、EA(エキスパート・アドバイザー)と呼ばれる自動売買プログラムです。
EAは、あらかじめ設定した取引ルール(ロジック)に基づいて、コンピュータが自動で売買を行ってくれるツールです。感情に左右されることなく、24時間体制で取引機会を捉え続けることができるため、多くのトレーダーにとって魅力的な選択肢となっています。
市販されている優秀なEAを購入して利用する方法もありますが、「自分の理想のトレードを形にしたい」「取引コストを抑えたい」「プログラミングスキルを身につけたい」といった理由から、EAを自作することに関心を持つ人も増えています。
この記事では、FXのEAを自作したいと考えている初心者から中級者の方に向けて、EAの基本知識から、自作するメリット・デメリット、具体的な作成手順、おすすめのツール、そして運用上の注意点まで、網羅的に詳しく解説します。この記事を最後まで読めば、EA作成の全体像を掴み、自分だけの自動売買システムを構築するための第一歩を踏み出せるようになるでしょう。
目次
FXのEA(自動売買プログラム)とは?
FXのEAについて理解を深めるために、まずはその基本的な定義、仕組み、そして裁量トレードとの違いについて詳しく見ていきましょう。
EAとは、「Expert Advisor(エキスパート・アドバイザー)」の略称であり、主に世界中のトレーダーに利用されている取引プラットフォーム「MetaTrader(メタトレーダー)」上で動作する自動売買プログラムを指します。日本では一般的に「EA」または「自動売買ソフト」と呼ばれています。
このプログラムの最大の特徴は、トレーダーがあらかじめ定義した取引戦略、つまり「どのような条件が揃ったら買い注文を出し、どのような条件になったら決済するのか」といった一連のルール(ロジック)を、24時間365日、トレーダーに代わって忠実に実行してくれる点にあります。
具体的には、移動平均線、RSI、MACDといったテクニカル指標の数値をリアルタイムで監視し、ロジックに設定された条件が満たされた瞬間に、自動で新規注文(エントリー)や決済注文(イグジット)をFXブローカーのサーバーへ送信します。これにより、トレーダーがチャート画面を見ていない睡眠中や仕事中であっても、設定した戦略に基づいて取引機会を逃さずに済みます。
裁量トレード、つまりトレーダー自身の判断で売買を行う手法との最も大きな違いは、「感情の介入を完全に排除できる」ことです。裁量トレードでは、「もう少し待てば利益が伸びるかもしれない(欲)」「損失を確定させたくない(恐怖)」といった心理的なバイアスが判断を鈍らせ、結果的に損失を拡大させてしまうケースが少なくありません。これはプロスペクト理論としても知られる人間の普遍的な心理です。
EAは、こうした感情的な揺らぎとは無縁です。プログラムに記述されたルールがすべてであり、条件が満たされればためらうことなく損切りを実行し、利益確定の条件に達すれば淡々と決済します。この「規律の徹底」こそが、EAが持つ最大の強みの一つと言えるでしょう。
さらに、EAには様々な種類が存在します。トレードスタイルによる分類では、数秒から数分で細かく利益を積み重ねる「スキャルピング型」、1日のうちに取引を完結させる「デイトレード型」、数日から数週間にわたってポジションを保有する「スイングトレード型」などがあります。
また、ロジックによる分類では、相場の大きな流れに乗って利益を狙う「トレンドフォロー型」、相場の過熱感や反転を狙う「逆張り型」、一定の価格帯での往復を狙う「レンジ相場型」など、多種多様な戦略に基づいたEAが存在します。
近年、EAがこれほどまでに注目されるようになった背景には、個人投資家の増加とテクノロジーの進化があります。インターネット環境の高速化やPCの高性能化により、高度なプログラムを個人レベルで動かすことが容易になりました。また、仕事や家庭の事情でトレードに十分な時間を割けない人々にとって、EAは時間的制約を克服し、効率的に資産運用を行うための有効な手段として認識されています。
もちろん、EAは「設置すれば必ず儲かる魔法のツール」ではありません。相場の状況は常に変化するため、どんなに優れたロジックを持つEAでも、時には損失を出すことがあります。しかし、その仕組みと特性を正しく理解し、適切に活用することで、EAはFXトレードにおける強力なパートナーとなり得るのです。この章の結論として、EAとは「自分自身の取引ルールをプログラム化し、感情を排して24時間自動で実行させるための強力なツール」であると理解しておきましょう。
FXのEAを自作するメリット
市販のEAを利用するのではなく、あえて時間と労力をかけてEAを自作することには、それを上回るだけの大きなメリットが存在します。ここでは、EAを自作することで得られる5つの主要なメリットについて、それぞれ詳しく解説していきます。
自分の理想のトレードを追求できる
EAを自作する最大のメリットは、「自分の取引哲学や相場観を100%反映させた、完全にオリジナルのトレード戦略を実現できる」ことです。
市販されているEAは、開発者が「多くの人に受け入れられやすい、汎用的なロジック」を基に作っていることがほとんどです。そのため、自分の得意な相場パターンや特定の通貨ペア、時間足に特化したニッチな戦略とは、必ずしも一致しません。また、多くの市販EAはロジックが公開されていない「ブラックボックス」であるため、なぜそのタイミングでエントリーし、決済したのかを完全に理解することは困難です。
しかし、自作であれば、そうした制約は一切ありません。例えば、以下のような非常にパーソナルで具体的な戦略をEAとして形にできます。
- 「ドル円の15分足で、東京時間の午前9時から11時の間だけ、特定のボリンジャーバンドのパターンが出現した場合にエントリーする」
- 「米国の雇用統計発表後、ボラティリティが急拡大した初動を狙い、特定の条件で数分間だけポジションを持つ」
- 「複数の時間足のトレンド方向が一致し、かつ特定のオシレーター指標が売られすぎのサインを示した時のみ、押し目買いを仕掛ける」
このように、自分自身が過去の検証や実際のトレードで有効だと確信している手法を、細部に至るまでプログラムに落とし込めるのが自作の醍醐味です。これにより、EAの動作原理を完全に把握できるため、相場の変化に対してロジックをどう改善すべきかというPDCAサイクルを回しやすくなり、トレーダーとしてのスキル向上にも直結します。
取引コストを抑えられる
長期的な視点で見ると、EAの自作はトータルコストを大幅に削減できる可能性があります。
高性能な市販EAは、1本あたり数万円から、中には数十万円するものも珍しくありません。また、月額課金制のEAも存在します。複数の戦略を試すためにいくつかのEAを購入すれば、初期投資だけでもかなりの金額になります。
一方、自作の場合、EAそのものを購入する費用は当然ながらゼロです。もちろん、プログラミングを学習するための書籍代や、後述する有料のEA作成ツールを利用する場合はその費用がかかります。しかし、一度スキルを身につけてしまえば、その後はいくつEAを作成しても、追加のコストはかかりません。
例えば、トレンド相場用のEA、レンジ相場用のEA、特定の通貨ペアに特化したEAなど、相場環境に合わせて複数のEAを使い分けるポートフォリオ戦略を実践したい場合、市販品で揃えると数十万円のコストがかかる可能性があります。しかし、自作であれば、それらをすべて無料で開発できます。この「一度身につければ、無限にEAを生み出せる」という拡張性の高さは、コスト面で非常に大きなメリットと言えるでしょう。
プログラミングスキルが身につく
EAの自作は、FXトレーダーとしてのスキルだけでなく、「MQL」というプログラミング言語を習得できるという副次的な、しかし非常に価値のあるメリットをもたらします。
MQL(MetaQuotes Language)は、EAを作成するために使われる専門言語ですが、その文法は広く使われているC++言語に非常に似ています。そのため、MQLの学習を通じて、変数、データ型、条件分岐(if文)、繰り返し(for文)、関数、オブジェクト指向といった、プログラミングの普遍的な基本概念を体系的に学ぶことができます。
このスキルは、単にEAを作るだけに留まりません。例えば、チャート上に独自の分析ツールを表示させる「カスタムインジケーター」の作成や、複雑な分析を補助する「スクリプト」の開発も可能になります。
さらに、ここで得たプログラミング的思考(ロジカルシンキング)や問題解決能力は、FX以外の分野、例えば仕事でのデータ分析や業務効率化など、様々な場面で応用できるポータブルなスキルとなります。将来的にIT分野へのキャリアチェンジを考えるきっかけになる可能性さえあるでしょう。トレードという目的を通じて、汎用性の高い市場価値のあるスキルが身につくことは、計り知れない資産となります。
作成したEAを販売して収益化できる
もし自作したEAが安定して優れたパフォーマンスを発揮するようになれば、それを「商品」として販売し、トレード収益とは別の新たな収入源を確立する道が開けます。
国内では「GogoJungle(ゴゴジャン)」といった、EAやインジケーターを専門に販売するプラットフォームが存在します。こうした場所で自分のEAを出品し、他のトレーダーに利用してもらうことで、売上に応じた収益を得ることができます。
もちろん、EAを販売するためには、単に利益が出るというだけでは不十分です。長期間のフォワードテストでその優位性や安定性を証明し、最大ドローダウン(一時的な最大損失額)を低く抑えるなど、商品としての高い品質と信頼性が求められます。また、購入者からの質問に対応するなどのサポート体制も必要になります。
しかし、これらのハードルをクリアできれば、自分の知識とスキルが直接的な収益に結びつくという、大きな達成感を得ることができます。トレードで勝つ喜びとはまた違った、「価値を創造し、他者に提供する」というビジネスの面白さを体験できるのは、EA自作ならではの魅力的な展開と言えるでしょう。
感情に左右されず24時間取引できる
これはEA全般に共通するメリットですが、自作EAにおいてはその意味合いがさらに深まります。なぜなら、「自分が100%理解し、信頼しているロジック」に基づいて、感情を排した取引を24時間実行できるからです。
市販のEAでは、ロジックがブラックボックスであるがゆえに、「本当にこのままで大丈夫だろうか?」と不安になり、大きなドローダウンが発生した際にEAを停止してしまうことがあります。これは、結局のところ裁量判断、つまり感情が介入している状態です。
しかし、自作EAであれば、すべてのロジックは自分自身で組んだものです。「このロジックは過去10年間のデータで検証済みで、最大ドローダウンはX%だった。今はその範囲内だから、ルール通りに任せよう」というように、根拠に基づいた冷静な判断ができます。
自分が睡眠中や仕事に集中している間も、信頼する分身であるEAが、マーケットのチャンスを虎視眈々と狙い、設定したルール通りに取引を執行してくれる。この安心感と効率性は、裁量トレードでは決して得られないものです。自作EAは、自分自身のトレード規律を強制的に守らせるための、最も強力な装置となり得るのです。
FXのEAを自作するデメリット
EAの自作は多くのメリットがある一方で、決して簡単な道のりではありません。挑戦する前に、そのデメリットや困難な点を現実的に理解しておくことが、挫折を防ぎ、成功への確率を高めるために不可欠です。ここでは、EA自作に伴う4つの主要なデメリットを詳しく見ていきましょう。
作成に時間とコストがかかる
EA自作における最大の障壁は、「膨大な時間と、ある程度の金銭的コストが必要になる」という点です。手軽に始められる趣味とは一線を画す、本格的な取り組みであると認識しておく必要があります。
まず、時間的コストについてです。全くの初心者がEAを一つ完成させるまでには、一般的に数百時間単位の学習と作業時間がかかると言われています。この時間には、以下のすべてのプロセスが含まれます。
- FXの基礎知識の習得: テクニカル分析、資金管理論など。
- プログラミング言語(MQL)の学習: 基本構文から応用まで。
- 取引ロジックの考案と設計: 優位性のある戦略を見つけ出す試行錯誤。
- コーディング(実装): 設計したロジックをプログラムに落とし込む作業。
- デバッグ: プログラムのエラーやバグを取り除く作業。
- バックテストと最適化: 何度もテストを繰り返し、パラメータを調整する作業。
これらの工程は一直線に進むわけではなく、何度も手戻りが発生します。特に、優位性のあるロジックを見つけ出す段階と、それを正確にコード化してテストを繰り返す段階で、多くの時間が費やされます。本業の傍らで取り組む場合、完成までに1年以上かかることも珍しくありません。
次に、金銭的コストです。MQLを学ぶための書籍やオンライン教材、より効率的に開発を進めるための有料ツール(後述)などを利用する場合は、数万円程度の初期投資が必要になることがあります。また、高性能なバックテストを快適に行うためには、ある程度のスペックを持つPCも求められます。「すぐに結果が出て、すぐに元が取れる」といった安易な考えで始めると、途中で挫折してしまう可能性が高いことを肝に銘じておく必要があります。
プログラミングや投資の知識が必要になる
EAの自作は、「投資(FX)の知識」と「プログラミングの知識」という、二つの異なる専門分野のスキルを高いレベルで融合させる必要があります。どちらか一方でも欠けていると、勝てるEAを作ることはできません。
まず、「勝てる取引ロジック」がなければ、いくら高度なプログラミングスキルがあっても意味がありません。移動平均線、MACD、RSIといった各種テクニカル指標の特性を深く理解し、それらをどのように組み合わせれば相場の優位性(エッジ)を見出せるのか、という投資家としての洞察力が不可欠です。また、リスクを管理するための資金管理術(ポジションサイジング、ドローダウンの管理など)に関する知識も同様に重要です。
一方で、どんなに素晴らしい取引ロジックを思いついたとしても、それをバグなく正確にプログラムとして実装するスキルがなければ、絵に描いた餅に終わってしまいます。例えば、「ゴールデンクロスしたら買い」という単純なロジックでさえ、どのタイミングでクロスと判定するのか(足が確定した時点か、クロスした瞬間か)、一度エントリーしたら次のシグナルまでどう待機させるのか、といった細かい仕様をすべてコードで表現しなければなりません。
この「投資脳」と「プログラミング脳」の両方をバランスよく鍛え上げなければならない点が、EA自作の難易度を高くしている大きな要因です。片方の知識だけで成功することは極めて難しいという現実を直視することが重要です。
必ず勝てるとは限らない
EA自作に挑戦する多くの人が夢見る「聖杯(Holy Grail)」、つまりどんな相場でも勝ち続ける完璧なEAは、残念ながら存在しません。「自作EA = 必勝ツール」ではないという事実は、最も心に留めておくべき重要なポイントです。
EA開発において初心者が陥りやすい最大の罠が「カーブフィッティング(過剰最適化)」です。これは、バックテストの成績を良く見せるためだけに、特定の過去の相場データにパラメータを過剰に適合させてしまうことを指します。例えば、過去1年間のデータで最高の成績が出るようにパラメータを微調整したEAは、その期間のデータに対しては素晴らしい結果を示すでしょう。しかし、そのEAを未来の未知の相場(フォワード)で動かすと、全く通用せずに大きな損失を出してしまうケースが後を絶ちません。
これは、そのEAが相場の普遍的な優位性を捉えているのではなく、過去の特定のノイズや偶然のパターンに「たまたま」適合しているだけだからです。
相場の環境(ボラティリティやトレンドの性質)は、常に変化し続けます。昨日まで有効だったレンジ相場向けのロジックが、今日からの強いトレンド相場では通用しなくなります。そのため、自作したEAが未来永劫利益を生み出し続ける保証はどこにもありません。バックテストの華やかな成績に一喜一憂せず、常に懐疑的な視点を持ち続けることが、長期的に生き残るために不可欠な姿勢です。
定期的なメンテナンスが必要
EAは「一度作ったら終わり」の放置型ツールではありません。むしろ、完成してからが本当のスタートであり、継続的なパフォーマンスの監視と定期的なメンテナンスが不可欠です。
自作したEAをリアル口座で稼働させ始めたら、そのパフォーマンスを週次や月次でレビューする必要があります。期待通りの成績が出ているか、最大ドローダウンは想定内に収まっているか、特定の曜日にだけ負けが込んでいるといった傾向はないか、などを詳細に分析します。
もしパフォーマンスの悪化が見られた場合、その原因を突き止めなければなりません。それは、相場環境がEAのロジックと合わなくなってきたからかもしれませんし、あるいはプログラムに潜在的なバグがあったからかもしれません。
原因に応じて、パラメータを再調整(再最適化)したり、ロジックの一部を修正したり、場合によってはEAの稼働を一時的に停止するといった判断が必要になります。この「運用・監視・改善」のサイクルを怠ると、かつては優秀だったEAが、気づかぬうちに大きな損失を生み出すだけの「不良資産」と化してしまうリスクがあります。自作EAの運用には、こうした地道で継続的な努力が求められるのです。
EAを自作するのに必要なもの
EAの自作を具体的に始める前に、いくつかの準備が必要です。ここでは、EA開発に着手するために最低限揃えておくべき3つの要素、「取引プラットフォーム」「取引の戦略・ロジック」「プログラミングの知識」について、それぞれ詳しく解説します。
取引プラットフォーム(MT4/MT5)
EAは、特定の取引プラットフォーム上で動作するプログラムです。そのデファクトスタンダード(事実上の標準)となっているのが、ロシアのMetaQuotes Software社が開発した「MetaTrader(メタトレーダー)」です。現在、主に「MetaTrader 4(MT4)」とその後継である「MetaTrader 5(MT5)」の2つのバージョンが広く利用されています。
EAを自作するということは、このMT4またはMT5で動くプログラムを作ることを意味します。 したがって、まずはどちらかのプラットフォームを自分のPCにインストールし、操作に慣れておく必要があります。ほとんどの海外FXブローカーや一部の国内FX会社がMT4/MT5を提供しており、リアルマネーを使わずに練習できる「デモ口座」を開設できます。EA開発は、このデモ口座上で行うのが基本です。
ここで、MT4とMT5のどちらを選ぶべきかという問題が生じます。
- MT4: 2005年にリリースされ、非常に長い歴史を持ちます。最大のメリットは、圧倒的な情報量とユーザー数の多さです。インターネット上にはMT4用のEAやカスタムインジケーター、プログラミングに関する情報が豊富に存在し、問題が発生した際に解決策を見つけやすいです。対応しているFXブローカーの数もMT4の方がまだ多い傾向にあります。そのため、特に初心者の場合は、情報収集のしやすさからMT4から始めるのが一般的です。
- MT5: MT4の次世代版として開発され、多くの点で機能が向上しています。特筆すべきは、バックテスト(過去のデータでEAの性能を検証する機能)の精度と速度が格段に向上している点です。MT5では、より現実に近い「全ティックデータ」に基づいた高精度なテストが標準で、かつ高速に行えます。また、プログラミング言語もMQL5へと進化し、より高度で複雑なプログラムが書きやすくなっています。
どちらを選ぶかは一長一短ですが、「情報量のMT4、機能性のMT5」と覚えておくと良いでしょう。これから本格的に長期で取り組むのであれば、将来性を見越してMT5を選択するのも有力な選択肢です。まずは、いくつかのFXブローカーのサイトを訪れ、デモ口座を開設して両方のプラットフォームを実際に触ってみることをお勧めします。
取引の戦略・ロジック
これは、EAの「魂」とも言える最も重要な要素です。「どのような相場状況で、どのようなルールに基づいて売買を行うのか」という、具体的な取引戦略(ロジック)がなければ、プログラムを作ることはできません。
このロジックは、EAの性能を決定づける核となる部分であり、プログラミングを始める前に、できる限り詳細に、かつ曖昧さなく定義しておく必要があります。具体的には、以下の項目をすべて言語化・数値化します。
- 使用する通貨ペア: 例)USD/JPY, EUR/USD など
- 使用する時間足: 例)5分足, 1時間足, 4時間足 など
- エントリー条件:
- 買い(ロング)エントリー: どのような条件が満たされたら買うのか。
- 例)「5期間単純移動平均線が25期間単純移動平均線を上抜いた(ゴールデンクロスした)次の足の始値で買い」
- 売り(ショート)エントリー: どのような条件が満たされたら売るのか。
- 例)「RSI(14)が70のレベルを上から下に抜けたら売り」
- 買い(ロング)エントリー: どのような条件が満たされたら買うのか。
- 決済条件:
- 利益確定(テイクプロフィット):
- 例1)「エントリー価格から+50pipsの指値注文を入れる」
- 例2)「ボリンジャーバンドの+2σにタッチしたら決済」
- 損切り(ストップロス):
- 例1)「エントリー価格から-30pipsの逆指値注文を入れる」
- 例2)「直近の安値を下抜けたら損切り」
- 利益確定(テイクプロフィット):
- 資金管理(ロットサイズ):
- 例1)「常に0.1ロットで固定」
- 例2)「口座残高の2%のリスクに収まるようにロットサイズを自動計算する」
- その他:
- トレーリングストップ: 利益が伸びた場合に、損切りラインを自動で切り上げる機能の有無。
- 最大ポジション数: 同時に保有できるポジションの最大数。
- 取引時間: 特定の時間帯(例:ロンドン時間のみ)だけ取引するなどのフィルター。
これらのルールを、誰が読んでも同じ解釈しかできないレベルまで具体的に書き出すことが重要です。最初はシンプルなロジックから始め、紙やExcel、マインドマップなどを使って整理することをお勧めします。この設計図がしっかりしていればいるほど、後のプログラミング工程がスムーズに進みます。
プログラミングの知識(MQL言語)
設計図である取引ロジックを、MT4/MT5が理解できる形(プログラムコード)に翻訳するために必要なのが、プログラミング言語「MQL」の知識です。
- MT4用 → MQL4
- MT5用 → MQL5
MQL4とMQL5は似ていますが、文法や関数に違いがあるため、自分が使用するプラットフォームに合わせた言語を学ぶ必要があります。これらの言語は、前述の通りC++言語に似た構文を持つオブジェクト指向言語(MQL5の場合)であり、プログラミング未経験者にとっては学習に時間が必要です。
学習方法としては、以下のようなものが挙げられます。
- 公式ドキュメント: MetaQuotes社が提供する公式のMQL4/MQL5リファレンスは、最も正確で網羅的な情報源です。関数の使い方や文法を調べる際の辞書として活用します。
- 専門書籍: MQLプログラミングの入門書がいくつか出版されています。体系的に基礎から学びたい場合に有効です。
- オンライン学習サイト・ブログ: 個人や企業が運営するサイトで、サンプルコードと共に分かりやすく解説されているものが多くあります。
- コミュニティフォーラム: MQL5の公式サイトには大規模なコミュニティがあり、世界中の開発者と情報交換したり、質問したりできます。
完全にゼロから手書きでコードを書くのが難しいと感じる場合は、次の章で紹介する「EA作成ツール」を利用するという選択肢もあります。これらのツールは、プログラミング知識がなくても、GUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)上でブロックを組み合わせるようにしてEAを作成できるものです。ただし、ツールの力を最大限に引き出すためにも、MQLの基本的な概念を理解しておくことは決して無駄にはなりません。
FXのEAの作り方 4つのステップ
EAの自作は、思いつきで進められるものではなく、体系的なプロセスを踏むことが成功への近道です。ここでは、EAを作成するための基本的な流れを、大きく4つのステップに分けて具体的に解説します。このステップを一つずつ着実に進めることで、初心者でも迷うことなく開発を進めることができます。
① 取引戦略(ロジック)を決める
すべての始まりは、「どのようなルールで取引するのか」という戦略(ロジック)を明確に定義することからです。これはEA開発における設計図を作成する工程であり、最も創造性が求められ、かつ最も重要なステップです。
前章の「必要なもの」でも触れましたが、この段階ではさらに思考を深め、自分のトレードスタイルやリスク許容度と向き合う必要があります。
- アイデアの発想: まずは、自分が普段の裁量トレードで使っている手法や、有効だと考えている相場のパターンを洗い出します。「移動平均線のクロスオーバーは有効そうだ」「レンジ相場では逆張りが機能しやすい」といった、大まかなアイデアからスタートします。インターネットや書籍で紹介されている一般的な手法を参考にしても構いません。
- ルールの厳密化: 次に、そのアイデアを「誰が聞いても一意に解釈できる、具体的なルール」に落とし込みます。
- 「移動平均線のクロス」→「どの時間足で?」「何の移動平均線(単純、指数?)を?」「期間はいくつといくつ?」「クロスした瞬間にエントリー? それとも足が確定してから?」
- 「逆張り」→「何をもって『売られすぎ』と判断するのか?」「RSIの数値が30以下になったら?」「ボリンジャーバンドの-2σにタッチしたら?」
- 全要素の定義: エントリー条件だけでなく、決済(利益確定・損切り)、ロットサイズ、取引する時間帯、同時に持つポジション数など、取引に関わるすべての要素を詳細に決定します。この時点で曖昧な部分を残しておくと、後のプログラミング工程で必ず壁にぶつかります。
このロジック設計の精度が、EAの性能を直接的に左右します。時間をかけてじっくりと、「なぜこのルールで勝てると思うのか」という根拠(エッジ)を自分の中で確立させることが極めて重要です。この段階で作成したルールは、フローチャートや箇条書きのドキュメントとして明確に記録しておきましょう。
② プログラミング言語(MQL)を学ぶ
設計図が完成したら、次はその設計図を基に家を建てるための「大工仕事」、つまりプログラミングのスキルを習得するステップです。使用するプラットフォーム(MT4/MT5)に合わせて、MQL4またはMQL5の学習を開始します。
プログラミング未経験者の場合、最初は難しく感じるかもしれませんが、EA作成に最低限必要な要素は限られています。まずは以下の基本的な概念と関数から重点的に学ぶのが効率的です。
- 基本構文:
- 変数: 数値や文字列を保存するための箱(
int
,double
,string
など)。 - 条件分岐(if文): 「もしAならばBを実行する」というロジックの根幹。
- 繰り返し(for文): 同じ処理を何度も繰り返す。
- 関数: 複数の処理を一つにまとめたもの。
- 変数: 数値や文字列を保存するための箱(
- EAの基本構造:
OnInit()
: EAがチャートに設置された時に一度だけ実行される初期化関数。OnDeinit()
: EAがチャートから削除される時に実行される終了処理関数。OnTick()
: レートが変動するたびに(ティックが更新されるたびに)実行されるメイン関数。取引ロジックのほとんどは、この中に記述されます。
- 主要な組み込み関数:
- 指標取得関数:
iMA()
(移動平均線)、iRSI()
(RSI)、iMACD()
(MACD)など、テクニカル指標の値をプログラム内で取得するための関数。 - 注文関連関数:
OrderSend()
(新規注文)、OrderClose()
(決済注文)、OrderModify()
(注文変更)など、実際の売買を実行するための最も重要な関数群。
- 指標取得関数:
これらの要素を、公式リファレンスや入門サイトのサンプルコードを写経(書き写すこと)しながら、実際にMetaEditor(後述)で動かして試してみるのが、最も効果的な学習方法です。
③ EAを作成する
知識のインプットと並行して、いよいよ実際のEA作成、つまりコーディング(プログラミングコードを書くこと)に着手します。この作業は、MT4/MT5に標準で付属している「MetaEditor」という専用のエディタで行います。
- MetaEditorの起動: MT4/MT5のツールバーから「MetaQuotes Language Editor」のアイコンをクリックするか、F4キーを押して起動します。
- 新規EAファイルの作成: MetaEditorの「新規作成」ウィザードに従い、「エキスパートアドバイザ(テンプレート)」を選択してファイルを作成します。すると、
OnInit()
,OnDeinit()
,OnTick()
といった基本構造があらかじめ記述されたテンプレートファイルが生成されます。 - ロジックの実装: ステップ①で設計した取引ロジックを、ステップ②で学んだMQL言語を使って、主に
OnTick()
関数の中に記述していきます。- テクニカル指標の値を
iMA()
などの関数で取得する。 if
文を使って、エントリー条件が満たされているかチェックする。- 条件が満たされていれば、
OrderSend()
関数を使って注文を出す。 - 保有中のポジションに対して、決済条件をチェックし、条件を満たしていれば
OrderClose()
で決済する。
- テクニカル指標の値を
- コンパイル: コードを書き終えたら、「コンパイル」ボタンをクリックします。これにより、人間が書いたMQLコードが、コンピュータが実行できる機械語のファイル(.ex4 または .ex5)に変換されます。この際に文法的なエラーがあれば、エディタ下部のエラーウィンドウに表示されるので、修正して再度コンパイルします。
このコーディングとコンパイル(エラー修正)の作業を何度も繰り返しながら、バグのないプログラムを完成させていきます。
④ バックテストでEAを検証する
プログラムがエラーなくコンパイルできたら、そのEAが本当に優位性のあるものなのかを客観的に評価するための、非常に重要な検証ステップに入ります。これが「バックテスト」です。
バックテストは、MT4/MT5に搭載されている「ストラテジーテスター」という機能を使って行います。過去のチャートデータ(例:過去10年間分)を使い、作成したEAをその期間で動かしたらどのような成績になったのかをシミュレーションします。
- ストラテジーテスターの設定: テストしたいEA、通貨ペア、期間、時間足などを設定します。
- テストの実行: 「スタート」ボタンを押すと、高速でシミュレーションが実行されます。
- 結果の分析: テストが完了すると、詳細なレポートが表示されます。ここで確認すべき重要な指標は以下の通りです。
- 総損益(Total Net Profit): 最終的な利益または損失。
- プロフィットファクター(Profit Factor): 総利益 ÷ 総損失。1を上回っていれば利益が出ていることを意味し、数値が高いほど効率が良いとされます。一般的に1.5以上が望ましいとされます。
- 最大ドローダウン(Maximal Drawdown): 資産が最大時から最も落ち込んだ時の下落率。リスクの大きさを測る重要な指標で、この数値が低いほど安定したEAと言えます。
- 勝率(Profit Trades): 全取引のうち利益が出た取引の割合。
- 取引回数(Total Trades): 統計的な信頼性を測るために、十分な取引回数があるかを確認します。
バックテストの結果が思わしくなければ、ステップ①のロジック設計に戻って戦略を練り直すか、ステップ③のコーディングを見直してバグがないか確認します。この「設計→実装→検証→改善」のPDCAサイクルを何度も何度も繰り返すことで、EAの質は着実に向上していきます。この地道な検証作業こそが、勝てるEAを生み出すための鍵となるのです。
EA作成に必要なプログラミング言語
FXのEAを作成するためには、MetaTraderプラットフォーム専用のプログラミング言語である「MQL(MetaQuotes Language)」を習得する必要があります。このMQLには、プラットフォームのバージョンに応じて「MQL4」と「MQL5」の2種類が存在します。両者は似て非なる言語であり、それぞれの特徴を理解して、どちらを学ぶかを選択することが重要です。
MQL4(MT4用)
MQL4は、世界で最も普及している取引プラットフォームであるMetaTrader 4(MT4)専用のプログラミング言語です。2005年のMT4リリースと共に登場し、非常に長い歴史を持っています。
MQL4の最大の特徴は、その圧倒的な情報量とコミュニティの大きさにあります。長年にわたり世界中のトレーダーや開発者に使われてきた結果、インターネット上にはMQL4に関する膨大な量の情報が蓄積されています。
- 豊富なサンプルコード: 初心者が参考にできるシンプルなEAから、プロが作成した複雑なインジケーターまで、無数のサンプルコードを見つけることができます。
- 充実した学習リソース: 日本語で書かれた入門サイトやブログ、解説書籍も数多く存在し、学習を始める際のハードルが比較的低いと言えます。
- 問題解決の容易さ: プログラミング中にエラーや不明な点に遭遇しても、検索すれば過去に同じ問題で悩んだ人の解決策や議論が見つかる可能性が高いです。
言語の構造としては、C言語に似た手続き型のプログラミングスタイルが基本となります。これは、処理を上から下へと順番に記述していくシンプルな考え方であり、プログラミングの初学者にとっては比較的理解しやすい側面があります。注文の処理(OrderSend, OrderCloseなど)も、関数ベースで直感的に行えるよう設計されています。
一方で、デメリットも存在します。MT5/MQL5と比較すると、バックテストの機能面で劣る点が挙げられます。MT4の標準的なバックテストは、実際のティックデータではなく、ローソク足のデータから簡易的に生成したティックを基にシミュレーションを行うため、特にスキャルピングのような短期売買EAの検証では、結果の信頼性が低くなる可能性があります。また、言語仕様が古いため、現代的なプログラミング手法であるオブジェクト指向のサポートが限定的で、大規模で複雑なプログラムを構築するにはMQL5ほどの柔軟性はありません。
まとめると、MQL4は「初心者フレンドリーで、情報入手のしやすさを最優先するなら最適な言語」と言えるでしょう。既存の資産を活かしながら、まずはEA開発の世界に足を踏み入れたい方におすすめです。
MQL5(MT5用)
MQL5は、次世代プラットフォームであるMetaTrader 5(MT5)専用の、より強力で高機能なプログラミング言語です。MQL4をベースに、多くの点が改良・拡張されています。
MQL5の最大の特徴は、その高いパフォーマンスと、C++に近い本格的なオブジェクト指向プログラミング(OOP)に対応している点です。これにより、より高度で、再利用性が高く、メンテナンスしやすいプログラムを構築できます。
- 高速・高精度なバックテスト: MQL5の最大の利点の一つです。MT5のストラテジーテスターは、実際の取引履歴から得られる「全ティックデータ」を利用した、極めて現実に近い環境でのバックテストが可能です。さらに、マルチコアCPUに対応しているため、最適化の計算などを並列処理でき、テストにかかる時間を大幅に短縮できます。
- 高度な注文管理: MQL4ではすべてのポジションが個別に管理されていましたが、MQL5では、同一銘柄のポジションを一つにまとめる「ネッティング方式」と、個別に管理する(両建ても可能な)「ヘッジング方式」を選択できます。これにより、株式や先物取引など、FX以外の金融商品にも対応しやすい柔軟な取引管理が実現されています。
- イベント処理の強化: MQL4では主に
OnTick()
(価格変動時)がメインでしたが、MQL5ではOnTrade()
(取引イベント発生時)やOnTimer()
(タイマーイベント)など、より多様なイベントをトリガーとして処理を実行でき、精緻なプログラム制御が可能です。
言語の学習コストは、MQL4に比べて高くなる傾向があります。オブジェクト指向の概念(クラス、オブジェクト、継承など)を理解する必要があるため、プログラミング未経験者にとっては少し敷居が高く感じられるかもしれません。また、普及度合いではまだMT4/MQL4に及ばず、日本語での情報量もMQL4ほど多くはないのが現状です。
しかし、その機能性、拡張性、そして将来性においては、間違いなくMQL5に軍配が上がります。これから本格的に自動売買プログラミングを極めていきたい、あるいはFX以外の金融商品への応用も視野に入れているという方にとっては、MQL5を学ぶことが最良の投資となるでしょう。
以下に、MQL4とMQL5の主な違いを表にまとめます。
項目 | MQL4 (MT4用) | MQL5 (MT5用) |
---|---|---|
ベース言語 | C言語ライクな手続き型 | C++ライクな本格的なオブジェクト指向 |
注文管理 | ポジションを個別に管理(ヘッジングのみ) | ネッティング(統合)/ヘッジング(両建て)を選択可 |
バックテスト機能 | 精度・速度がやや劣る(簡易ティック生成) | 高速・高精度(実際の全ティックデータ利用可) |
情報量・普及度 | 非常に多い | 増加中だがMQL4には及ばない |
学習コスト | 比較的低い | 比較的高い(オブジェクト指向の理解が必要) |
将来性・拡張性 | 安定しているが、主流はMQL5へ移行中 | 非常に高い |
結論として、どちらの言語を選ぶべきかは、あなたの目的と現在のスキルレベルによって決まります。 手軽に始めて豊富な情報を活用したいならMQL4、将来性を見据えて高機能な開発環境で本格的に取り組みたいならMQL5がおすすめです。
初心者向け|EA作成におすすめのツール3選
EAの自作に興味はあるものの、「プログラミングを一から学ぶのは時間的にも能力的にもハードルが高い」と感じる方は少なくないでしょう。幸いなことに、現代ではプログラミングの知識がなくても、あるいは最小限の知識で、直感的にEAを作成できる便利なツールが存在します。ここでは、特に初心者におすすめのEA作成ツールを3つ厳選してご紹介します。
① EAつくーる
「EAつくーる」は、FX関連のコンテンツ販売で有名な株式会社ゴゴジャン(GogoJungle)が開発・販売している、日本で最も知名度の高いEA作成ソフトの一つです。プログラミング未経験者をメインターゲットとしており、その使いやすさには定評があります。
最大の特徴は、日本語に完全対応した、非常に直感的なグラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)にあります。取引ロジックを、まるでブロックを組み立てるかのように構築していくことができます。
例えば、「移動平均線のゴールデンクロスで買い」というロジックを作りたい場合、
- 「買い条件」のブロックを選択
- 条件として「テクニカル指標」→「移動平均線」を選ぶ
- 「ゴールデンクロス」という条件を選択し、期間などのパラメータを入力する
といった具合に、画面の指示に従ってクリックと入力を行うだけで、複雑な条件式を組み上げていくことが可能です。損切りや利益確定、トレーリングストップ、ロット計算といった基本的な機能はもちろん、複数の条件を組み合わせる「AND/OR条件」や、取引時間の設定など、かなり高度なロジックまでカバーしています。
完成したロジックは、ボタン一つでMT4用のMQL4ソースコード(.mq4ファイル)として出力されます。このソースコードをMetaEditorでコンパイルすれば、すぐにEAとして使用できます。
EAつくーるは、特にプログラミングアレルギーのある方や、自分のトレードアイデアをとにかく早く形にしてバックテストで試してみたいという方に最適です。ただし、有料のソフトウェアである点と、GUIベースであるため、手書きのコーディングに比べると実現できるロジックの自由度には限界がある点には注意が必要です。
(参照:株式会社ゴゴジャン 公式サイト)
② EA-Generator(EAジェネレーター)
「EA-Generator」もまた、プログラミング不要でEAを作成できるツールの一つです。EAつくーると似たコンセプトのツールですが、こちらはWebブラウザ上で動作するサービスである点が特徴的です。ソフトウェアをPCにインストールする必要がなく、インターネット環境さえあればどこでも利用できます。
このツールも日本語に対応しており、Webサイト上のフォームに設定値を入力していく形式でEAを作成します。使用するテクニカル指標、エントリー・決済の条件、各種フィルターなどをプルダウンメニューから選択したり、数値を入力したりすることで、EAの仕様を決定していきます。
EA-Generatorは、シンプルなロジックから、複数の条件を組み合わせた複雑なロジックまで対応しており、初心者でも迷わずに操作を進められるように設計されています。作成できるEAはMT4用とMT5用の両方に対応しているバージョンもあり、幅広いニーズに応えています。
こちらも有料のサービス(プランに応じた月額課金制など)が基本となります。Webベースで手軽に始められる反面、ツールの提供する機能の範囲内でしかEAを作成できないという制約は、EAつくーると同様です。しかし、複雑なプログラミングコードと格闘することなく、自分の戦略が通用するかどうかを迅速に検証したい場合には、非常に有効な選択肢となります。
(参照:EA-Generator公式サイト)
③ MT4/MT5の標準エディタ(MetaEditor)
最後にご紹介するのは、特別なツールではなく、MT4およびMT5に標準で搭載されている「MetaEditor(メタエディタ)」です。これは、MQL4/MQL5言語を直接記述してEAやインジケーターを開発するための統合開発環境(IDE)です。
ここまでに紹介した2つのツールとは異なり、MetaEditorを使用するにはMQL言語の知識が必須となります。GUIで直感的に操作するのではなく、一行一行コードを記述していく、いわゆる「手書き」での開発スタイルです。
一見すると初心者には最もハードルが高い方法ですが、他のツールにはない決定的なメリットがあります。それは、「最高の自由度と拡張性」です。有料ツールが提供する機能の枠に縛られることなく、MQL言語で表現できることであれば、どんなに複雑で独創的なロジックでも、文字通りすべてを実装できます。
また、MetaEditorは完全に無料で利用できます。MT4/MT5をインストールすれば誰でもすぐに使うことができるため、コストをかけずに本格的なEA開発を始めたい方には唯一の選択肢となります。コードの入力補完機能や、エラー箇所を特定するデバッグ機能も備わっており、開発を強力にサポートしてくれます。
プログラミングの学習は必要ですが、長期的に見てEA開発を極めたい、自分のスキルとしてプログラミングを身につけたいと考えている意欲的な初心者や、中級者以上の方には、MetaEditorを使いこなす道が最も推奨されます。
以下に、3つのツールの特徴を比較した表をまとめます。
ツール名 | 特徴 | 対象ユーザー | メリット | デメリット |
---|---|---|---|---|
EAつくーる | 日本語対応のインストール型ソフト、直感的なGUI | プログラミング未経験者 | 簡単操作、迅速な開発、日本語サポート | 有料、複雑なロジックに制限 |
EA-Generator | Webブラウザベースのサービス、日本語対応 | プログラミング未経験者 | 簡単設定、プラットフォーム非依存、手軽 | 有料(サブスク等)、自由度に制限 |
MetaEditor | MT4/MT5標準搭載の統合開発環境 | 中〜上級者、学習意欲の高い初心者 | 無料、最高の自由度・拡張性 | MQL言語の知識が必須 |
自分のスキルレベルや、EA開発にかけられる時間、そして目指すゴールに応じて、これらのツールを賢く選択・活用することが、挫折しないための重要なポイントです。
自作したEAを運用する際の3つの注意点
苦労してEAを自作し、バックテストで良好な結果が得られたとしても、そこで終わりではありません。むしろ、リアルマネーを投じて実際に運用するフェーズこそが最も重要であり、細心の注意が求められます。ここでは、自作したEAを運用する際に必ず心に留めておくべき3つの重要な注意点を解説します。
① 完璧なEAは存在しないと理解する
EAを自作する過程で、バックテストの成績に一喜一憂し、いつしか「どんな相場でも勝ち続けられる完璧なEA=聖杯」を追い求めてしまいがちです。しかし、まず最初に、そして最も強く認識すべきことは、「完璧なEAは絶対に存在しない」という厳然たる事実です。
相場は、トレンド、レンジ、高ボラティリティ、低ボラティリティといった様々な顔を持ち、常に変化し続ける生き物です。ある特定の相場環境で驚異的なパフォーマンスを発揮するEAが、別の環境では全く通用しなくなることは日常茶飯事です。
バックテストで示された美しい右肩上がりの資産曲線は、あくまで「過去の特定のデータセット」に対する結果に過ぎません。未来の相場が同じように動く保証はどこにもなく、どれだけ優れたEAであっても、必ず損失を出す期間、すなわち「ドローダウン」は発生します。
この事実を受け入れずに運用を始めると、EAが少し負け込んだだけで「このEAはもうダメだ」と不安に駆られ、本来のロジックが機能する前に稼働を停止してしまったり、逆に損失を取り返そうと無謀なロットで稼働させたりと、感情的な行動に走りがちです。
重要なのは、EAを「魔法の打ち出の小槌」ではなく、「確率的な優位性を持つ取引ルールを、規律正しく実行してくれるツール」と正しく位置づけることです。ドローダウンは必ず起こるものと想定し、それがどの程度の規模になりそうかをバックテストで把握した上で、それに耐えうるだけの余裕を持った資金管理を徹底することが、長期的に生き残るための絶対条件となります。
② 相場の状況に合わせてEAを使い分ける
一つのEAが全ての相場環境に対応できない以上、賢明な運用者は「ポートフォリオ」という考え方を取り入れます。これは、株式投資で複数の銘柄に分散投資するのと同じように、性質の異なる複数のEAを組み合わせてリスクを分散し、全体のパフォーマンスを安定させる戦略です。
例えば、以下のような組み合わせが考えられます。
- トレンドフォロー型EA: 大きなトレンドが発生した際に利益を狙う。
- レンジ逆張り型EA: 相場が一定の範囲で動いている時に細かく利益を積み重ねる。
- 通貨ペアの分散: ドル円で動かすEAと、ユーロドルで動かすEAを組み合わせることで、特定の通貨の突発的な動きによるリスクを軽減する。
このように、異なるロジック、異なる通貨ペアで稼働するEAを複数用意し、それぞれの得意な相場が来た時に利益を上げられるように備えるのです。あるEAが苦手な相場で損失を出している間も、別のEAが得意な相場で利益を上げてくれれば、口座全体の資産の落ち込みは緩やかになります。
さらに、一歩進んだ裁量判断も重要になります。例えば、米国の雇用統計や各国中央銀行の政策金利発表など、相場のボラティリティが極端に高まることが予想される重要な経済指標の発表前後は、EAの稼働を一時的に停止するという判断です。多くのEAは、平常時のテクニカル分析を前提に作られており、こうしたイレギュラーな値動きでは想定外の大きな損失を被るリスクがあるからです。
EAは自動売買ツールですが、運用を完全に放置して良いわけではありません。 現在の相場がどのような状況にあるのかを大局的に把握し、どのEAを動かし、どのEAを休ませるのかを適切に判断する「運用者の裁量」が、最終的な成果を大きく左右します。
③ 少額から取引を始める
バックテストやデモ口座でのテストでどれだけ素晴らしい結果が出たとしても、いきなり大きな資金を投じてリアル口座での運用を始めるのは絶対に避けるべきです。必ず、「フォワードテスト」として、失っても生活に影響のない少額の資金で、最小ロットから取引を開始してください。
なぜなら、デモ口座とリアル口座では、一見同じように見えても、トレーダーにとって不利な、しかし無視できない差異が存在するからです。
- スリッページ: 注文した価格と、実際に約定した価格の間に生じるズレ。特に値動きが激しい時には、不利な方向へスリッページが発生しやすくなります。
- 約定拒否(リクオート): 不利なレート変動があった際に、ブローカーが注文を約定させず、再提示してくる現象。
- サーバーとの通信遅延: 自宅のPCからブローカーのサーバーまでのネットワーク遅延が、約定タイミングに微妙な影響を与えることがあります。
- 心理的影響: 実際に自分のお金がかかっているというプレッシャーは、デモ口座では決して体験できません。
これらの要素は、バックテストやデモ口座のシミュレーションには現れない「現実世界の不確実性」です。スキャルピングのようにわずかなpipsを狙うEAでは、こうした微妙な差異がパフォーマンスに致命的な影響を与えることもあります。
まずは少額のリアル口座で最低でも1ヶ月以上は運用し、バックテストの結果と実際の取引結果に大きな乖離がないかを確認します。スプレッドの拡大やスリッページの影響はどの程度か、想定外の挙動はないかなど、現実環境でのEAの振る舞いを徹底的に観察します。このフォワードテストを通じて、EAの信頼性を最終確認し、問題がなければ徐々にロットを上げていく、という慎重なステップを踏むことが、取り返しのつかない失敗を避けるための鉄則です。
EAの自作が難しい場合の対処法
EAの自作は非常に魅力的ですが、相応の時間、労力、そして専門知識が求められるため、誰もが成功できるわけではありません。「挑戦してみたけれど、途中で挫折してしまった」「そもそもプログラミングを学ぶ時間がない」といった状況に直面することもあるでしょう。しかし、そこで諦める必要はありません。EAを自作する以外にも、自動売買のメリットを享受する方法は存在します。ここでは、EAの自作が難しいと感じた場合の、現実的な2つの対処法をご紹介します。
優秀な市販EAを購入・利用する
最も手軽で一般的な代替案が、プロの開発者や優秀なトレーダーが作成し、販売しているEAを購入して利用する方法です。自作の最大のメリットである「完全なオリジナリティ」は失われますが、時間と労力を大幅に節約できるという、計り知れないメリットがあります。
ただし、市販EAの世界は玉石混交であり、中には高額なだけで全く勝てない詐欺的なEAも紛れています。優秀なEAを見極めるためには、購入前に以下のポイントを慎重にチェックすることが極めて重要です。
- 長期間のフォワード実績: バックテストの成績は、前述の通りカーブフィッティングによって良く見せかけることができます。最も信頼できるのは、リアル口座で長期間(最低でも1年以上)運用された実績である「フォワードテスト」の結果です。信頼できる販売プラットフォーム(GogoJungleなど)では、販売者が自身のリアル口座の成績を公開していることが多いので、必ず確認しましょう。
- 最大ドローダウンの低さ: どれだけ利益が大きくても、一時的な損失(ドローダウン)が大きすぎるEAは、運用中に資金が底をつくリスクが高いです。最大ドローダウンが低く抑えられており、資産曲線が比較的滑らかなEAは、安定性が高いと評価できます。
- 信頼できるプラットフォームでの購入: 個人ブログなどで直接販売されているEAよりも、GogoJungleのような第三者の審査が入るプラットフォームで販売されているEAの方が、信頼性は高いと言えます。利用者のレビューや評価も重要な判断材料になります。
- 開発者のサポート体制: 購入後にバグが発見された場合のアップデートや、設定に関する質問への対応など、開発者のサポートがしっかりしているかどうかも確認しましょう。コミュニティ機能などで開発者の人柄や対応の様子がわかる場合もあります。
これらの点を踏まえて慎重に選べば、自作に費やすはずだった膨大な時間を節約し、すぐにでも実績のあるロジックで自動売買を開始できます。 これは、特に時間的制約のある方にとっては非常に合理的な選択です。
専門家や開発会社に外注する
「自分だけのオリジナルの取引ロジックはあるが、それをプログラムに落とし込むスキルがない」という場合に最適なのが、EAの開発そのものを専門家に依頼する「外注」という方法です。自分のアイデアを形にするという、自作の醍醐味の一部を味わいつつ、最も時間のかかるプログラミング工程をプロに任せることができます。外注には、主に2つの方法があります。
クラウドソーシングで依頼する
「ランサーズ」や「クラウドワークス」といったクラウドソーシングサイトを利用して、フリーランスのMQLプログラマーに開発を依頼する方法です。
- メリット:
- 開発会社に依頼するよりも、比較的低コストで済む可能性があります。
- コンペ形式などで複数の開発者から提案を受けることができ、自分と相性の良い人を選べます。
- 過去の実績や評価を見て、依頼する相手を慎重に選ぶことができます。
- デメリット:
- 開発者のスキルレベルにばらつきがあるため、信頼できるプログラマーを見極める目が必要です。
- 仕様の伝達や進捗管理など、コミュニケーションコストが相応にかかります。ロジックを正確に伝えるための詳細な仕様書を自分で用意する必要があります。
小規模な修正や、比較的シンプルなロジックのEA開発であれば、クラウドソーシングは非常に有効な手段となります。
プログラム開発会社に依頼する
FXのEAやカスタムインジケーターの開発を専門に請け負っているプログラム開発会社に依頼する方法です。
- メリット:
- 個人のプログラマーに依頼するよりも、品質や納期の信頼性が非常に高いです。
- 組織として対応してくれるため、仕様のヒアリングから設計、開発、テスト、アフターサポートまで、一貫したプロフェッショナルなサービスが期待できます。
- 複雑で大規模なロジックの開発にも対応できる技術力があります。
- デメリット:
- コストが最も高額になります。一般的に、数十万円から、仕様によっては百万円単位の開発費用がかかることもあります。
- 企業とのやり取りになるため、個人のフリーランスに頼むよりも手続きが煩雑になる場合があります。
資金に余裕があり、絶対に失敗したくない、あるいは非常に複雑なシステムを構築したいという場合には、専門の開発会社への依頼が最も確実な選択肢と言えるでしょう。
EAの自作が難しいと感じても、道が閉ざされるわけではありません。自分の時間、予算、そしてスキルレベルを客観的に見極め、これらの代替案を検討することで、あなたに合った形でFXの自動売買を実現することが可能です。